第6章 芽生えた感情の名は
【キッチン】
「ふんふふ〜ん…♪」
その日、レイジさんから許可を貰って、私はキッチンで料理していた。
「へったくそな鼻歌」
「…下手くそで悪かったですね」
後ろを振り返ると、椅子に座っているアヤトくんが悪態をついた。
「…人間ってメンドくせぇな。あぁ、オマエは人間のフリしてる天使だっけ」
アヤトくんはつまらなさそうな顔で言う。
「なんで食事の用意にそんな時間掛けられんだ?そのまんま齧り付きゃいいだろーが。食えねぇわけじゃねーんだからさ」
「でもそれだと味気ないでしょ?肉だって生のままだとお腹壊すし、きっと焼いた方が美味しいよ。私だって折角なら美味しく食べたいもの」
「……で?ソレ、後どんくらい掛かるんだよ?」
「うーん、後20分くらいかな?」
「20分?そんなに掛かんのかよ?」
「ハンバーグ作ってるの。今日の夕食で食べたいなって。今はハンバーグにかけるデミグラスソース作ってるから少し時間掛かっちゃうんだ。あ、出来たらアヤトくんも食べる?」
「バーカ。ヴァンパイアの食事は血だって言ってんだろ。そんなん食ったって、栄養にはならねぇんだよ」
「でも味を楽しむ為に食べることはあるってレイジさんが言ってたよ?それに時々みんなで揃って食卓を囲んでるじゃない」
「ありゃ、アイツの壮大なジョーダンだろ」
「(冗談じゃないと思うけどな…)」
「まあいい。お前がオレに薦めてくるってことはそれなりに味には自信があるんだな?」
「料理はそれなりに得意だよ」
「つうか、天使って料理すんのかよ?」
「天界にいた頃は出された食事を食べてたけど、下界に来てからはレシピ本を買って自分で作るようになったよ」
「ふーん…。なぁ、オマエは天界で暮らしてたんだよな?やっぱり魔界とは違うのか?」
「多少は違うんじゃないかな。私は魔界に行ったことがないから分からないけど、天界は『神の聖域』って呼ばれるくらいだし、空気も澄んでいて良いところだよ」
「神の聖域ねぇ…。そんな良いところなのに、なんでオマエ下界で暮らしてんの?」
「そ、れは……」
アヤトくんの質問に手が止まる。
「…下界に興味があったから」
「そんだけ?」
「うん」
.