第1章 PROLOGUE-はじまり-
騒動に目が覚めたのか、エントランスホールにやって来た眼鏡の男性。アヤトくんが知っているということはこの家の人なのだろう。
「どうかしましたか。そんなに惚けて」
「(良かった…助かった…)」
ホッと胸を撫で下ろす。
「(アヤトくんがこの人に気を取られている今なら隙をついて逃げ出せる…!!)」
私はアヤトくんの胸をぐいっと押し返し、自力でそこから抜け出すとレイジさんの側に駆け寄った。
「……っ!おいっ!!」
「あの…アヤトくんのお兄さんですよね!?」
「は?…貴女は?」
「兎月メグルと言います。ユイちゃんの忘れ物を届けに来たのですが留守みたいなのでレイジさんから彼女に返しておいてください!」
「待て地味子!まだ話は終わってねえ!」
「じゃあ私帰ります!電車に乗り遅れると大変なので!」
落ちていた鞄を拾い上げ、アヤトくんから逃げるように一方的に話を終わらせ、屋敷から出ようとした。
「待ちなさい」
「え?」
「外は雨です。先程より強くなっています。貴女、傘は持ってるんですか?」
「あ…持ってないです」
「バーカ。傘くらい持ってろっつの」
「アヤトくんうるさい!」
「ンだと!もっかい言ってみやがれ!」
「ひっ!?」
「ああもう!喧しいですよ二人とも!もう少し静かにできないのですか?」
「す、すみません…」
「チッ」
「とりあえずリビングへどうぞ。温かい飲み物でも淹れましょう」
「いえ…私は…」
「それとも私の命令が聞けないと?」
「っ、ぜひお願いします!!」
「宜しい、こちらです」
「(最悪…)」
「逃げそびれちまったなぁ…ククク…」
小馬鹿にするように笑うアヤトくんをキッと睨むも効果はなかった。
「こっちに来ないで!」
「テメェがオレの近くにいんだろうが」
「じゃあアヤトくんが離れてよ!」
「オレ様に命令すんじゃねえ!」
「命令じゃないし!それに頬摘んだこと怒ってるんだから!アヤトくん反省してよね!」
「…マジでとっ捕まえて食ってやろうか」
「に、睨んだって怖くないもんね…っ!」
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