第6章 芽生えた感情の名は
アヤトくんもこちらをじっと見つめている。きっと呆れてるんだ。面倒くさい女だって心底うんざりしてるはず。早く、涙を止めないと…。
「あ、あはは…ごめんね。突然目にゴミが入っちゃって…涙まで出てきちゃった」
ぐしぐしと乱暴に目元を拭う。心配そうに私を見るユイちゃんに申し訳ないと思うと同時に、見ないで欲しいと思ってしまう。
「チチナシ、先帰ってろ」
「え?でもアヤトくん一人で掃除なんて…」
「いいから。今は帰れ。オマエにいられると困るんだよ。こいつの涙、止めてやれねぇだろ」
「!」
「…うん、わかった。でも掃除はしっかり終わらせてから帰ってね」
「(アヤトくん……)」
鞄を持ち、ユイちゃんは私とすれ違う時にこちらを一瞥し、教室から出て行った。
教室には私とアヤトくんの二人きり。黙ったままこちらを見ているアヤトくんと、まだ流れている涙を必死に止めようとする私。
「おら、とっとと泣き止め」
「う、ん……ちょっと待って」
頬を伝い、床に落ちた涙が小さな跡を残す。するとアヤトくんが大きな溜息を一つ零してこちらへと近づいて来る。
「オレ以外の奴の前で泣くんじゃねーよ」
「無茶言わないで…」
「あ?無茶じゃねえ。もし他の奴の前で涙なんか見せたら、タダじゃおかねぇからな」
「わっ……!」
そう言ってアヤトくんは私を抱き上げて机の上に乗せると、そのまま唇にキスをする。
「んっ……」
「!」
「チュッ……ククッ」
「な、なんで笑うの?」
「やっぱりキスしたら一発で泣き止んだなと思って。オマエほんと分かりやすいな?」
「そ、それは急にキスされたから…!」
「だってオマエ好きだろ?オレにキスされんの」
「す、好きじゃないよ…!」
「バーカ、オマエの嘘はすぐバレんだよ。オレ様を騙し通せるなんて思ったら大間違いだっつーの」
「アヤトくん…」
「あの時も目にゴミが入っただけなんて嘘ついて誤魔化してたけどよ…本当は、」
ゆっくりと顔を近づけられる。
「チチナシに嫉妬したんだろ?」
「!?」
私の反応を見て、アヤトくんは図星だと思ったのか、ニヤリと笑う。そしてもう一度、唇にキスをした。
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