第6章 芽生えた感情の名は
「ちょ…何してるのアヤトくん!?」
悲鳴を上げるユイちゃんを愉しげに見て笑うアヤトくんの突然の行動に驚いた私。
「つ、冷たい!バケツの水掛けるなんて信じられない…!」
「ククッ、オマエが言ったんだろ?ソウジしろって」
「こ、こんなの掃除じゃない…!」
アヤトくんのせいで水を被ったユイちゃんは全身ずぶ濡れだ。
「ほら、ドコキレーにして欲しい?言ってみろよ」
「そんなのないよ」
「言われねぇなら…オレが選んでやろうか?……こことか?」
「やっ……ちょ、ちょっと変なトコロ触らないで……!」
「!」
アヤトくんがふざけてユイちゃんの身体に触って反応を楽しんでいる。それを見て何故か胸がチクッと痛み出した。
「(何、今の…?)」
「ククッ、ほら。リクエストがねぇなら、もっとヤルぜ?」
「あ、アヤトくん!やめて……!」
「いいなその顔。もっと怯えろ」
「……だめ。」
小さく呟いた声は二人には届かず、アヤトくんはユイちゃんの足を触り出す。
「オマエ、確か足弱かったよな?」
「え!?アヤトくん!?」
「(…やだ。触っちゃダメ。)」
ズキズキと痛む胸を押さえる。
「(あれ…?何だろう…胸が痛い。いつもの胸の苦しさじゃない。アヤトくんがユイちゃんに触れただけで凄く嫌な気持ちだ…)」
じわりと涙が浮かぶのが分かった。
「(それに…胸の痛みと一緒に心の奥底から込み上げるドロドロとした黒い感情は一体なんなの…?)」
「もう!アヤトくん!」
「なんだよ、もう降参か?」
「あ、足触るのやめ……」
「ククッ」
「(あ、ダメだ……。)」
我慢が出来ず、ポロッと涙が溢れた。
「え!?メグルちゃん!?」
「(違う…ユイちゃんは悪くない。私が勝手に泣いただけ。でも…お願い…アヤトくんを盗らないで。)」
目を見張ったユイちゃんが突然涙を流した私を見てあたふたし始める。
「ど、どうしたの!?大丈夫!?」
「……………」
「(別にアヤトくんがユイちゃんに触ろうと私には関係ない。関係ない…はずなのに…誰かがアヤトくんに触れただけで"触らないで"って思っちゃう。)」
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