第1章 PROLOGUE-はじまり-
「せっかくオレが気持ち良く寝てたのに…オマエの存在がウゼェせいで目が覚めちまっただろうが」
「(逃げなきゃ…!!)」
「…おい。なーに逃げようとしてんだよ」
「っ!?」
ぐんっと手を引っ張られ、アヤトくんに押し倒されてしまう。その瞬間、私の顔が恐怖で強ばる。
「あ…?オマエ…地味子じゃねーか!」
「そ、その呼び方やめて…!!」
「何でオマエがここにいるんだよ?」
「ユイちゃんに忘れ物を届けに…」
「チチナシの忘れ物だァ?」
アヤトくんは床に落ちたノートを見た後、私に視線を戻して、ニヤリと笑う。その顔はまさにいじめっ子のようで、私は背筋をぞくりと震わせた。
「飛んで火に入るなんとかってのはオマエのことだなぁ?」
「夏の虫ね!?」
「んな細けぇことはいんだよ」
「(この笑み、絶対にまずいやつ。)」
「丁度腹が減ってんだ。チチナシもいねーし、この際オマエで我慢してやっから有難く思えよ」
「何…言ってるの…?」
「寝起きにとっておきのご馳走ってな…ククク…」
「ア、アヤトくん!笑ってないで答えてよ…!」
「なにビビってんだよ。声震えてんぜ?」
「ビ、ビビってないし!いいから私の上から退いて!」
「地味子の分際でオレに指図してんじゃねえ!」
「いひゃ!?」
むぎゅっと頬を摘まれ、痛みで涙が滲む。それを見たアヤトくんの顔が愉しげに歪む。
「は、はにゃひへ!!」
「ハハッ、何言ってんのか全然わっかんねー」
「うぅ……」
「すーぐ泣くのな、オマエ」
ケラケラと可笑しそうに笑うアヤトくんに涙がポロポロと零れる。手を掴んで引き剥がそうとしてもビクともしない。痛くて逃げたいのに、アヤトくんが上に乗っているせいで身動きが取れなくて、良いように遊ばれる。
「いひゃい…」
「なぁ地味子。オマエ…泣き顔もすげぇそそるな。まだ痛くしたらもっと泣くのか?」
「や、やだ…ひっく…退いてぇ…っ」
「退くワケねぇだろ。あーすげ、何もしてねぇのに勝手に溢れてきた。ククッ…」
「も、離して!痛い!」
「痛くしてンだから痛いのは当たり前だろうが。つぅかピイピイうるせえ。」
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