第4章 神の御遣い
それを見たアヤトくんがムッとした顔で私の額にデコピンする。
「いったぁ…っ!」
「あからさまにホッとしてんじゃねぇ」
「いきなり何すんの!」
「うっせえ!生意気なんだよテメェは!」
「(な、生意気…!?)」
「チッ」
「(うぅ…容赦なしにデコピンした。今のは頬を抓られるよりも痛かった…)」
涙目になりながら額を擦る。
するとアヤトくんが笑いながらこちらに近付き、言った。
「これで終わったと思うなよ?」
「っ………!」
「オマエのハジメテは全部オレが奪ってやる。覚悟しておけ」
そう囁いて、去る背中を見つめながら、私はまだキスの余韻が残る唇を指でなぞった。
「(アヤトくんは、どうしてこんなことするんだろう…?)」
答えは明確。面白いからだ。
全ては彼の快楽のために。
そこにきっと愛なんてない。
「(別にアヤトくんに愛を求めてるわけじゃないけど…遊び感覚で血を吸われるのは怖い。)」
これからもアヤトくんは私の──天使の血に執着するだろう。彼にはまだ私の正体を知られてはいない。
もしバレてしまえば…。そう考えるだけで恐怖で身体が震えた。魔族と関わったらダメなのに…もう何度もアヤトくんと接触している。
「(胸の痛み…少し落ち着いてきた。)」
下界に来て随分と経つが、まだ呪いを解いてくれる運命の相手とは出逢えていない。
『君が運命の相手と出逢い、その者と共に永遠の愛を手に入れた時、君にかけられた忌まわしい呪いは消える』
早く呪いを解いて死の恐怖から解放されたい。そして好きな人と幸せになりたい。それが今の私の願いだ──。
「(このまま何もせずに心臓が壊れて、最悪な最期を迎えるなんて絶対にイヤ。)」
でも…運命の相手って、誰なんだろう?
私を愛してくれる人…
もしかしてアヤトくん?
「(なんて…冗談。)」
彼と一緒に呪いを解くのは無理だ。
「(そもそもアヤトくんは私なんか好きじゃない。私もアヤトくんなんか好きじゃない。)」
それに魔族と恋仲になるなんて許されない
だから私の運命の相手はアヤトくんじゃない
不意に胸が痛んで、私は自分の身体を抱き抱いた。
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