第3章 初めてのキスは鉄の味
「『私の血を好きなだけあげますから命だけは助けて下さい。お願いします』ってさ」
「そ、そんなの…」
「あー、いや…?それじゃつまんねーな。たまにはオマエからねだってみろ。『私の血を啜って、気持ちヨクして下さい』ククッ、これだな」
「き、気持ちよくって…そんなこと…」
「言えねぇなら…コイツでオマエの身体、切り刻んでいくだけだぜ?」
「っ……!」
「あぁそれか『アヤトくんが好きで好きでたまりません。身も心もアヤトくんに捧げます。だから許して下さい』って言うのでもいいぜ?」
「(そんな恥ずかしいこと言えるわけない…!)」
「おら、早くしろ。どうすんだ?」
「あ…アヤトくんが…」
「…………」
「っ………」
「…………」
「す…好き」
「!」
「───じゃないから…そんなこと、言えない…」
「…タイムオーバーだ。」
「え?」
「その心臓に、思いきり刺してやるよ…!」
「………!」
冷たい目をしたアヤトくんが矢を投げた。胸の真ん中を目がけて一直線に飛んでくる。
「ひっ……!?」
ギュッと目を瞑った。これが最期なんてあまりにも酷すぎる。どうしてアヤトくんは私にこんなことをするんだろう。きっと私のことが嫌いなんだ。死の直前にそんなことを思いながら、胸に刺さる矢の痛みを待った。
「……っ……!」
だがいくら待っても胸に矢が刺さる瞬間はこなくて、私は恐る恐る目を開ける。
「(あ…当たってない…?)」
「オレ様の寛大さに感謝しろよ」
「っ……!」
胸に刺さる直前でアヤトくんが矢を受け止めている。だがいつの間にこんな近くにいたのか、私は驚きと恐怖で訳が分からなかった。
「……っ……」
こ、声が出ない…
身体も震えて…治らない
「イイ…たまんねぇな…。死の恐怖に震えるオマエの表情。その表情に免じて、今日は許してやる」
グイッ
「(い…痛っ、顎を掴むアヤトくんの手…いつもより力が強い…!)」
「あー、わり。痛いか?どーも満月の夜は力の加減ができねぇ。ククッ。知ってるか?満月の夜っつーのはヴァンパイアの力が強まるんだぜ?その分、吸血衝動も高まる」
.