第3章 初めてのキスは鉄の味
「……っはぁ。流れ過ぎると、血を拭うので手一杯になっちまうからな」
カタカタと身体が震え、恐怖で涙が溢れる。私はどうにかして逃れようと腕を動かし、鎖を外そうとする。
「ハハッ、バーカ。暴れても無駄だっつーの。オレ様が縛ったんだ。そう簡単には外れねぇよ」
「(やだ、怖い…このままじゃ本当にアヤトくんに…!)」
カシャンカシャンと鎖の音が聞こえる。それでもやっぱり外れなくて私は絶望する。その時、ポケットから何かが落ちた。
「ん?何だこれ?」
「あ……!」
「懐中時計…?何でこんなもん持ってんだよ?」
拾い上げたアヤトくんが不思議そうに問う。
「…アヤトくんに関係ない。それは私の大切なものなの。返して。」
関係ないと口にしたせいか、アヤトくんの片眉がピクッと跳ね上がった。
「へぇ…オマエ、誰に逆らってんの?」
「さ、逆らってないよ…。ただ、それは本当に大切なものだから返してほしくて…」
「……………」
アヤトくんが持っているのは、母様の形見の懐中時計だ。大切なものだから返して欲しくてアヤトくんにお願いしただけなのに私の言い方がまずかったみたいで、怒らせてしまった。
「そんなに返して欲しいか?」
「う、うん」
「ならオマエで遊んだ後に返してやるよ」
笑いながら言ったアヤトくんは再びさっきの位置に立ち、ダーツの的である私を見た。
「さあ、次はどこを狙ってやろうか?」
「や、やめて…どうしてこんな…」
いつも意地悪ばかりするアヤトくんだけど、今夜は何か雰囲気が違う。彼を取り巻く空気が…近くにいるだけで息が詰まりそうだ。
「どうして?そーだなぁ…?ふ……っ!」
ドスッ!
「きゃああっ!」
「ククッ、オマエのそういう顔が見たいからだな」
「(アヤトくん…本気の顔してる。いつもはない、殺気みたいなものまで感じる…)」
「許して欲しけりゃ、命乞いしてみろよ」
「え……?」
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