第3章 初めてのキスは鉄の味
「(ふわふわして気持ちイイ…)」
「ニマニマしやがって。普段はオレに笑顔の一つも見せねぇくせに。だらしねぇ顔だな」
悪態をつくアヤトくんはまた手を頬にくっ付けた。
「オマエ、オレのこと嫌いなんじゃねーのかよ」
「好きではないけど…たまに助けてくれるからありがとうって気持ちくらいはあるよ」
「気持ちだけかよ。そこは体で返すのがオレへの感謝になんだろうが」
「(…アヤトくん屁理屈。)」
「嫌いなら手、離せよ」
「アヤトくんの手、冷たくて気持ちイイねぇ」
何故だか離す気になれず、誤魔化すように会話をスルーして、冷たい手に頬を擦り付ける。
「アヤトくん」
「…なんだよ」
「えへへ…アヤトくん」
「チッ。用もねぇのに呼ぶんじゃねぇ」
「(嫌がってはなさそうな声…)」
「はぁ…血も…いつもより甘い匂いになってるぜ?オマエは泣いても笑っても血が甘くなるのかよ。…はぁっ。くそっ、我慢できねぇ。いいか?地味子」
「え……」
「……ん……」
「あ……っ」
「………っ。あまい……」
「(いつもみたいに…痛くない。それよりも、あつくて…きもち…いい…)」
うつらうつらと睡魔が襲い、アヤトくんが血を吸ってる最中に、私の眠気は限界に達した。
「……っ……ん?」
「すー、すー」
「げっ、この状況で寝んのかよ!?お楽しみはまだまだこれからだろーが!おい、起きろ、地味子!」
「ん……」
「くそっ、ヤッちまうぞ、コノヤロウ!」
「すー、すー」
「…チッ、まぁ今日は勘弁してやる。リアクションがねぇオマエを抱いてもつまんねーからな。だから…ヤル時は思いっきり泣き叫んで、オレを楽しませろよ?」
アヤトが口許を歪めて愉しげに笑った。
「ん……んん……」
すると握っていたアヤトの手をメグルは離してしまう。
「!」
「すー、すー」
ベッドに投げ出された手をアヤトはじっと見つめ、自分の手をメグルの手と繋ぎ直し、優しく握った。
「…ちっせぇ手」
ボソッと呟き、まだ微かに火照っているメグルの寝顔を見て、ふと小さく笑う。
「バァーカ」
その声はどこか優しかった。
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