第1章 PROLOGUE-はじまり-
「お、お邪魔しまーす…」
屋敷の中は薄暗く、注意して歩かなければ、床に躓いて転んでしまいそうになる。
「あの!すみません!誰かいませんか?」
中央には二階に続く階段があり、いくつかの部屋もある。きっと今いるここはエントランスホールだ。私は怖がりながらも、ゆっくりと周囲を見回す。
「(ドアが開いたから絶対に誰かいるはずなのに…人の気配がしない。)」
恐怖心が煽られ、逃げ出したいと半べそをかいていれば、バタンッとドアが閉まった。
「ひぃっ!?」
閉まる音にさえビビり散らかし、女子とは思えない小さな悲鳴を上げる。バクバクと逸る心臓を落ち着かせ、スゥゥー…と息を吸い込む。
「(描いてくれた地図が間違ってたんだ。こんな怪しい場所にユイちゃんはいない。一度屋敷を出て彼女に連絡しよう!)」
身体を震わせて涙目になりながらも、屋敷から出ようとすると、ふと視界の隅にソファーが目に入り、誰かが寝ている事に気付いた。
暗くて顔までは見えないが、誰かがいたと云う事にホッと胸を撫で下ろし、その人に駆け寄る。
「あの!すみません!此処で暮らしている小森ユイという女性に忘れ物を届けに来たの…です…が…」
「……………」
「え……?」
そこで眠っている人物の顔を見た瞬間、私は衝撃を受け、ピシッと身体を硬直させた。
「…………っ!?」
本物のオバケよりも、もっと恐ろしいものに会ってしまい、思わず叫びそうになった声を慌てて呑み込む。
「ア…アヤト…くん…?」
見間違いだろうか、とゴシゴシと目を擦り、もう一度しっかりと眠っている人物の顔をまじまじと観察する。
「(見間違いなんかじゃなかった!!本物のアヤトくんだ!!何で此処にいるの!?)」
「……………」
「(え!?幻覚見てるんじゃないよね!?)」
そしてその瞬間、気付いてしまった。
「(…ちょっと待って。アヤトくんが此処にいるってことは…もしかしてこの屋敷…)」
サァーッと顔から一気に血の気が引いた。
「(逆巻兄弟の家!!?)」
知らぬ間に魔窟に迷い込んでしまった事実に、私は目を見開き、言葉を失う。
「(最悪…アヤトくんがいるなんて…)」
思わず顔を歪めた。
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