第1章 PROLOGUE-はじまり-
「──大きな屋敷…本当にこんな場所にユイちゃんは暮らしてるの?」
豪邸とも呼べる屋敷の広さに、門の前で唖然と佇む。なぜ私が此処にいるかと云うと…彼女の担任から返し忘れたノートを届けて欲しいと頼まれ、学校帰りにこの場所へとやって来たのだ。
「地図描いてもらったけど…確か此処って…街でも有名な"オバケ屋敷"じゃ…」
怖いなぁ…と不安げに屋敷を見上げる。
ピカッ
「!」
ゴロゴロ…ピシャーン!!
「ひぁ!?」
近くに落ちたのか、大きな音で雷が鳴った。その音に驚いて身体が跳ね、変な声が出る。
「び、びっくりした…」
今日は生憎の曇り空。じめじめとした空気に負けず劣らず、目の前の屋敷は本当に何かが現れるんじゃないかと思うくらい、静けさと不気味さが漂っていた。
「冷た…!」
上からポタッと水滴が落ちた。その後、すぐにザァーッと雨が本降りに変わり、傘を持参していなかった私は慌てて駆け出し、扉の前に避難した。
「少し濡れちゃった…」
鞄から桃色の生地に花の絵が隅っこに刺繍されたハンカチを出し、雨に濡れた制服を軽く拭う。
「傘、やっぱり持ち歩くんだった」
溜息を零し、扉に付いているドアノッカーを掴み、ゴンゴンッと鳴らす。
「…すみません!」
何度か鳴らしても、外から声を掛けても、誰かが開けてくれる気配はない。雨は降ってて寒くなってきたし、電車通学なので早めに駅に向かいたい。
「(移動距離が大変なんだよね…)」
短い溜息を漏らす。
「(困ったな、やっぱり誰も出てこない。灯りもついてないし…留守なのかな?)」
此処に来る前にユイちゃんにメールを送ったのだが、返事はまだ届いてなかった。
ギィィィ…
「え……!?」
オバケ屋敷の雰囲気を演出しているかのように重たい玄関の扉がひとりでに開いた。
「うわぁ…勝手に開いたよ。これって招待されてるってこと?まさか本当にオバケ屋敷とかじゃないよね…?」
この時点で既に帰りたい気持ちが強かった。私は内心ビクビクしながら怯えた様子で開いた扉から屋敷の中に足を踏み入れた。
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