第3章 初めてのキスは鉄の味
ある日の夜、お風呂に入って温まろうとバスルームへとやって来た。流石は大きな屋敷だけあってバスルームも広い。洗面台とバスルームは一つの空間にある。
「よし、いい湯加減。ふふ、この時間が一番楽しみだなぁ」
浴槽に張ったお湯の熱さを確かめる為、手を入れてみる。少しぬるめの丁度いいお湯加減だ。
パタパタッ
「(…ん?)」
外から誰かが走ってくる音がした。その足音はバスルームの前で立ち止まる。
「お、やっぱ入って…」
「(っ、アヤトくん──!?)」
私は慌ててドアまで駆け寄り、アヤトくんが開けるより前に中から鍵を掛けた。
「あ、この!開けろっつの!」
「開けません!今は私が入ってるんだからアヤトくんは後にして!」
「バーカ、知ってて来たんだっつーの」
「えぇ!?」
堂々と覗き宣言をしたアヤトくんに驚く。まだ入る前だったので服は全部脱いでいない。
「そう警戒すんなって。イイモン持って来てやったんだからさ」
「い、いいもん?」
「そ。ククッ、まぁなんだ?入浴剤みたいなもんか?」
「入浴剤?」
「ああ。ますます気持ちよーくなれんぜ?」
「ど、どうしてアヤトくんが私にそんなの…」
やっぱり何かの罠…?
「オマエ、最近疲れてんだろ?オレが大分血もらってるしな」
「え……」
「ゆっくり風呂で…あー、なんつーんだ?血のコウカ?ケツコウ?」
「…血行のこと?」
「ソレソレ。良くしてくれっつーオレ様の優しさだ。それにいつもいじめてばっかだからな、そのお詫びも兼ねてオマエには入浴剤で疲れを癒して欲しいんだよ」
「アヤトくん…」
普段じゃありえないアヤトくんの優しさは考えてみれば怪しいと疑うのだが、何よりアヤトくんの言葉が嬉しくて目頭がじーんとなった。
「じゃあ、使わせてもらうね」
「ククッ、じゃあ…」
「あぁ、でも入ってくるのはダメだから!渡すならドアの隙間からにしてね!」
「……チッ」
「(今舌打ちした…?)」
「ほら、ドアちょっと開けろよ」
「う、うん…」
「ん。」
「あ、ありがとう…」
鍵を開けてドアの隙間からアヤトくんから貰った入浴剤を受け取る。
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