第19章 三つ子の母

【バルコニー】


「(月が綺麗…まん丸で…兎とか住んでるのかな？)」



「──んふ、お花ちゃん、こんなところで何してるの？」



「ライトくん…」



「ああ、あれでも見てたのか。やっぱり、前とは少し違う感じがするの？」



「違くて…あまりにも月が綺麗だから眺めていただけ。兎とか…本当に月に住んでるのかなって…」



「え？兎？」



「う、うん…」



「……………」



「ライトくん？」



「ぷっ、あははは！お花ちゃん可愛すぎ！月に兎なんか住んでるわけないじゃない」



「なっ…何もそんなに笑うことないでしょ!?」



キョトンとしていたライトくんが笑い出す。私はなんだか馬鹿にされた気がして、むっと顔をしかめる。



「…もういい、中に入る」



「ごめんごめん。行かないでよ。もうちょっと月を眺めようよ。ふたりきりで、さ」



「……………」



「今日の月はまん丸だね」



「…やっぱりこんな日は妙な感じがする？」



「んふ。ヴァンパイアって生き物はね、特にあれに影響されやすい生き物なのさ。人間にも若干影響あるって聞いたけど」



「言われてみれば…いつもより月が綺麗なせいか、目を奪われちゃう」



「目を奪われるだけ？」



「うん。変な感じはするけどね」



「でも、こんな風に、見てるだけでざわざわしたり…狂おしい感情が湧くことはないだろ？」



「それはない…けど」



「まあ、それを感じられるようになったのなら、お花ちゃんも一人前になりつつあるってこと───嬉しい？ボクらの…ううん、ボクの仲間になれるかもしれないんだよ」



「私はライトくんの仲間にはならない」



「んふ。相変わらず素直じゃないね。口では否定しても、心はそうは思ってないはずだ」



「……………」



「月の影響なのかな、今日のお花ちゃんがいつも以上に可愛く見えて…狂おしい感情が…ほとばしり出て、キミを今すぐここで貪りたい気分」



「っ…………」



恍惚とした表情に怖くなり、私は一歩後ずさる。



「逃げようとするなんて悪い子だなあ」



「あっ……！」



腕を掴まれ、逃げ場を失う。



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