第19章 三つ子の母
『アンタの母親はね、瀕死のアタシを助けずに、雨の中見捨てたのよ』
『!!』
『あの女に命乞いするのは死んでも嫌だったけど、助かるにはそれしかなかった。でも…!あの女はそれを断った!!』
激怒した彼女は再び怒り出す。
『天使の力があればアタシは助かったのに…!!それをアイツは…!!』
『(当然だ。魔族嫌いの母様が彼女を助けるはずがない。)』
『だから天使って大嫌いなのよ!!』
『さっき…瀕死って言ったけど、貴女はこうして生きてるよね?』
『えぇ、"生きてる"わよ』
意味深な発言を残し、彼女は笑う。
『あの女は散々アタシを馬鹿にして貶した。そしてあの人の心さえも独り占めした。だから復讐するって決めたの。アンタ、あの女と同じ天使の力を受け継いでるんでしょ?』
『…だったら何』
『アタシに寄越しなさい』
『!』
『天使の力を手に入れさえすれば、あの人はアタシを見てくれる。そしてあの人の企みも叶わなくなるわ』
『企み?』
『あの人はアンタを使って───……』
そこまで言うと彼女は言葉を止める。
『やめとくわ。簡単に教えたらつまらないもの。それより…ねぇ、気付いてる?』
『?』
『アンタの心臓、呪いによって壊れ始めてるわよ』
『っ………!!』
『もう時間がないんじゃない?ライトと…ヴァンパイアと繋がって、その身体に魔族の血を取り込んだことで、天使の力が弱まり始めてる』
『(そんな…このままじゃ…)』
『んふ、いい気味だわ。あの子もたまには役に立つじゃない』
『!』
『もう少しよ』
『え……?』
『もう少しでアタシは覚醒する。その時は…アンタを殺して、天使の力を奪うから、覚悟しておくことね──』
彼女の姿が次第に薄れ始める。
『ま、待って…!』
手を伸ばすも、その姿は暗闇に紛れ、彼女と自分の距離が空いてしまう。
『んふ、楽しみだわ……───』
クスクスと笑う声が悍ましかった。私はこの人が苦手だ。
『(そうだ…名前を…聞かなくちゃ…)』
そう思うも私の意識も次第に遠のき始める。
瞼が重くなり、目を閉じた。
そして私の意識はそこで途切れた───。
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