第19章 三つ子の母
『わ、私は貴女から何も奪ったりなんかしてない!適当なこと言わないで!』
『…気づいてないの?アンタは無意識にあの子からの愛を欲しがってる。決して叶うことのない愛をあの子に求めてるのよ』
『え?』
彼女の言っている意味が分からなかった。
『ねぇ知ってるかしら?』
憎らしげな顔から一変し、憐れむような視線でクスクスと笑い始めた女性に、私は不思議と首を傾げる。
『アンタの母親はね…ただ単に殺されたわけじゃないのよ。あの人の愛を拒絶したせいで…あの人の狂気に殺されてしまったの』
『っ!?』
『でもこれであの人はアタシだけを見てくれる。あの女に向いていた愛が今度は私に向くのよ!!』
『どうして…母が殺されたことを知ってるの?』
『天使なんかに教えてあげないわ』
『貴女は母が誰に殺されたのか知ってるの?』
『えぇ、知ってるわ』
『誰!?一体誰が母様を…!!』
『フフ…良いわねその顔。知りたいのに教えてもらえないもどかしさ。まるであの女を見ているみたいで気分が良いわ』
彼女は可笑しそうに笑った。
『自力で辿り着くことね。まぁでも…ヒントくらいはあげましょうか』
『!』
『アンタの母親を殺した奴はね──アンタに呪いを掛けた奴と一緒よ』
『え……?』
衝撃的な言葉に耳を疑った。
『アンタに呪いを掛けたのは、あの女にフラれた事への復讐ってとこかしら。でも自業自得よ。アンタ達は二人してアタシのモノを奪ったんだもの。それくらいの罰は受けるべきだわ』
『(母様はそいつの愛を拒絶したから殺されたの?じゃあ夢の中のあいつは、母様が一番大事にしているモノを壊すために私に呪いを掛けたってこと…?)』
そう考えたら、私の顔から一気に血の気が引いた。
『あの人はあの女を欲しがったわ。大方、天使という珍しい種族にでも惹かれたんでしょうね』
『……………』
『でもあの人の思い通りにはならなかった。結局あの女はあの人の愛を捨てた。これでアタシはあの人に愛される。そう思った──……』
すると彼女がまた憎らしげに睨み付ける。
『なのに…!!あの人はあの女を諦めなかった!!無表情で冷たい女のどこにあの人が惹かれたって言うのよ!?』
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