第17章 ハジメテの痛み
「さあ、もうちょっと遊ぼうよ」
「わ、私はもう…!」
「溺れそうならボクにしがみついてればいいよ」
「…分かった。その代わり、絶対に放さないでね?」
「んふ。お花ちゃん、やっぱり命がかかると素直になるんだね──可愛いよ。チュッ」
「ライトくん…」
「怒らない怒らない。せっかく水で濡れたキミも色っぽくて素敵なんだから」
「…意味わからない」
「んふ。だから…分かってるクセに」
耳元で吐息まじりに囁かれ、ぞくっとさせる。パッと囁かれた方の耳を押さえながらライトくんを軽く睨めば、楽しそうに笑っていた。
「はぁ…こんな時間に水遊びなんて…」
「んふ。こんな時間ってボクらの活動時間はいつだって夜中だよ」
「(元々私の活動時間は朝だったよ…)」
それが下界に来て、夜間学校に通い始めてからは、真逆の生活を送っている。
「ここの月が…一番綺麗に見えるからさ。見なよ。湖面に映る月を…」
「…確かに、映ってるけど…」
ゆらゆらと揺れ、時折波で割れて、ふたつになったりしてる。
「んふ。綺麗だろう?ボクは空に浮かぶ月なんかより…こっちのほうが好きだよ」
「そう……」
「やっぱり理解してもらえないかな?でも、ボクはそれでも構わないよ──この感覚は…ボクとあの人だけのものだからね」
「っ………」
また、胸が痛い…。どうでもいいことだって思うのに、あの人って誰…。そんなことが気になってくる。
「(それを知ったところで…何が起こるわけでもないのに…この気持ち、一体なんなんだろう。)」
私は湖面に映る月より、空に浮かぶ月を見上げた。
「(綺麗…天界の月も綺麗だけど、下界の月はまた違って見える。)」
「月に見惚れるお花ちゃんも可愛いね」
「…そういうこと言わないで」
「本当のことなのに」
クスッとライトくんは笑った。
「ねぇお花ちゃん」
「?」
「いつかキミは自らボクを欲するようになるよ。これは近い将来の予言だ。それまではゆっくりと…キミの本性を育て上げるとしよう…フフフフフ」
「(私…自分で自分が分からなくなりつつある…ライトくんの予言が本当に当たりそうで…怖い…)」
私は小さく体を震わせた。
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