第14章 愛しの"アノ人"
「ライトくん…」
やめてと悲願する私をライトくんは恍惚とした表情で見つめている。
「今夜のような夜にはねぇ…くく…ボクら闇の住人は、特に喉が渇くんだよ」
ドクンッ
「非道く渇いて、カラカラ…とにかく喉を潤したくてたまらないのさ」
ドクンッ
「(恐怖と不安と緊張で…心臓の音がいつもより、速い…。)」
「どんなにつまらないモノの血でも今夜ばかりは美味しく思える…そういう夜なんだよ」
「(っ…ライトくんの肩越しに…満月が…)」
「さあて、どこからいこうか」
「あっ……!!」
「ココだね…やっぱり最初はスタンダードな場所からだよね。んっ……!!」
「ひっ……!」
ライトくんは私の両手を押さえ付け、首元にキバを突き立てた。
「(首が…ものすごく痛い…や、だ…っ!!)」
「ん……はぁ……」
「っ……!や、めて……」
あまりの痛さと怖さに涙が溢れる。
「……っ……この味……」
「痛い…離して…」
「──どこかで飲んだ気が。確か、"アノ人"が昔…」
「な、に…?」
「んふ。こっちの話だよ。はぁ…とっても美味しいよお花ちゃん…舌が痺れるよ」
「(痛い痛い痛い…っ)」
「お花ちゃんもどうかな?初めてを失った、感想。」
「っ…………」
身体がフワフワして、魂が抜け出るような不思議な感覚だった。
「んふ。泣くほど気持ち良すぎて言葉も出ないみたいだねえ」
「ひっく…お願い…もうやめて…」
「いいよ。まだまだ月は出てる。だから、キミのこともゆっくりじっくり──弄んであげる」
「離し、て…離して…!」
ズグ…ッ
「うぐっ!?」
「!」
ライトくんに血を吸われている途中で、胸に激しい痛みが襲った。目を見開いた私は、体を横に向け、両手で胸を押さえる。
「ハッ…ハァ…っ…ぐ……ぅ……」
「お花ちゃん?どうしたの?」
「(胸が…痛い…!呼吸が…できな…ぃ…)」
「お花ちゃん、息できてる?」
「あ…うぐ…ぅ…ハァ…いっ…たい…っ」
「……………」
胸の痛みは治まらず、怖くなって涙を浮かべて身体を震わせる。ライトくんは痛がる私をじっと見下ろしていた。
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