第14章 愛しの"アノ人"
「そうやって謝れば済むと思ってる?」
「っ…お、思ってない、よ。で、でも…!ライトくんだって私に急にキスするんだもん。私、何度もやめてって言ってるのに…」
ポタポタと頬を流れる涙は顎を伝い、浴槽に張ったお湯にぴちゃんっと跳ねるように落ちる。
「純情ぶっちゃって悪いコだなーお花ちゃんは。本当はボクとキモチイイことしたいって思ってるクセにそれを隠そうとするんだ?」
「お、思ってない…!」
「嘘。だってお花ちゃん、ボクがキスすると…目がとろんっとして、すごーく気持ちよさそうにしてるよ」
「っ………」
「図星でしょ」
「ち、違うってば…。」
「はぁー、まったく。強情なんだから。変なところで意地張らなくてもいいのに」
「……………」
「でもボクの姿を探して、必死に手を彷徨わせてるお花ちゃんは、可愛かったよ♪」
「もうやだ…」
「ボクと楽しいことしてるだけだよ?何がそんなにイヤなの?」
「こんなの、楽しくない。本当に…怖くて…独りになっちゃったんじゃないかって、不安だったんだから…!」
「!」
「それなのにライトくんは…!」
「そんなに怒らないでよ。勝手にいなくなったって勘違いしたのはお花ちゃんでしょ」
「いくら呼んでもライトくんが返事しないからだよ…!」
ぎゅっと目を閉じれば、目尻に溜まっていた涙が流れ、顎を伝い落ちる。そんな姿を見てライトくんが手を伸ばし、私を抱き寄せた。
「よしよし」
「っ………!」
「馬鹿だねお花ちゃんは。ボクがキミを独りにさせるわけないでしょ。大丈夫、お花ちゃんにはボクがずっと傍にいてあげる」
「…嘘つき」
ずっとなんていないくせに…
独りにするくせに…
背中に手を回し、抱きしめたまま、ライトくんは私の頭を優しく撫でる。
「ムチはもうおしまい。ここからは、あまーいアメをあげる。こうやって抱きしめて、頭を撫でて…それからキスでお花ちゃんを慰めてあげるよ」
「なにそれ…意味わかんない」
「"分かってるクセに"」
くすっと笑い、ライトくんは目を瞑り、顔を寄せる。ムチが続いたからか、無性にアメが欲しくなり、私も目を瞑って、お互いに唇を重ね合わせた──。
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