第14章 愛しの"アノ人"
「(あれ?いない…?)」
手を伸ばしてライトくんの身体に触れようとしてもそこは宙を切るだけ。何も見えず、何も聞こえない状況が、更に私の中の恐怖と不安を駆り立てた。
「ねぇ返事してよライトくん!」
本当にどこかに行ってしまったのだろうか。でもバスルームを出た気配はなかった。だからと言って、こんなに呼んでるのに返事がないということは…放置された?
「あ、ぅ…暗い…」
頭部に手を回し、リボンの結び目を外そうとする。
「(か、固くて解けない…!)」
キツく結んだのか、指先に力を入れても結び目は外れなかった。
「や…やだ…やだやだ…」
顔を俯かせ、小さく首を振る。
「ひっく…何も見えない…っ…怖い…お願い…誰か…助けて…っ」
こんな時間だ。誰もバスルームに用はないだろう。せめて目隠しが外れてくれたら…。ライトくん…わざとキツく結んだんだ。信じられない…だから、ライトくんなんて…。
「そこはボクに助けを求めるところじゃない?」
「っ……!?」
聞こえた声にビクッと体を揺らすも、顔を上げて、か細い声で彼の名前を呼ぶ。
「ライトくん…?」
「お花ちゃんはさー、こういう状況に追い込まれても、ボクの名前を呼んでくれないよね。ショックだなー」
残念そうに溜息を吐いたライトくんは私の唇に自分の唇を重ねる。
「ふっ!?…っ、んん…っ」
「んっ……チュッ……ん……」
深くて、優しいキス。あぁまた…気持ちよくて嫌になる。
「泣くならボクに縋ってよ。ちゃんと助けてあげるからさ」
「…………」
「?お花ちゃん?」
返事がないのを不思議に思ったライトくんが私の目隠しを外してくれた。視界が色づき、ライトくんの顔が見える。
「…ライトくん」
ポロポロと涙が流れた。
「な…なんで、ひっく…呼んでるのに…返事してくれないの…?わ、私…怖くて…リボンも外れないし…っく…ライトくんが、どこかに行っちゃったんだって…思って…」
「お花ちゃんがボクの唇、噛んだりするからだよ。だからムチを与えてあげようと思って」
「ご、ごめん、ね…?」
涙で濡れた顔でライトくんを見て、言葉に詰まりそうになりながらも謝る。
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