第14章 愛しの"アノ人"
「舐めてみてよ…ボクの血…今までに何人もの女の血を啜ってきたこの、ボクの血をさ」
「ひっ…!」
ライトくんは血が付いた指のまま、私の唇をなぞっていく。
「んふ、お花ちゃん…綺麗な口紅だねえ…ふふふ、最高だよ。いつも塗ってるのは薄い口紅だから目立たないけど…ボクの血で彩られていくお花ちゃんは本当に綺麗だよ」
じわりと涙が浮かぶ。
「どうしたの、そんなに怯えて。もしかして、ヴァンパイアの血を口にすると、同じくヴァンパイアになるとでも思ってたりするの?」
「っ…ち、がうよ…ただ。普通に考えて、他人の血を舐めるなんて…ゾッとする、だけ」
それに…私の身体に魔族の血が交じると穢れが生じて、天使の力が失われるかもしれない。だから冗談でもライトくんの血は口に出来ない。
「くすくす…ま、そうかもねえ。ボクは今すぐにでも…キミの血を啜って、啜って…啜り尽くしたい気分なんだけどね?」
「っ…………」
「まあいいよ。もう少しだけ…待っててあげるから。それまで…恐怖と快楽というエッセンスで、キミの身体に巡る血を…あまーくあまーく…仕立ててあげるよ。楽しみにしてて?」
「っ………!」
体が震え、恐怖が宿る目でライトくんを見る。
「お花ちゃんってば、本当に泣き虫だなぁ。ボクが怖い?」
「こ、こわい、よ…」
「じゃあもっと…怖がらせちゃおうかな」
「え!?」
濡れたリボンで私の視界を覆った。色づいた世界が急に色を失くして暗闇に染まる。不安になってライトくんの名前を呼んだ。
「…ライトくん」
「視界を奪ってしまえば、何も見えなくて怖いでしょ?目隠しプレイ、一度やってみたかったんだよね」
「やだ…外して!」
視界が見えない分、聴覚に全集中を注ぐ。もう訳が分からない。ただお風呂に入りに来ただけなのにどうしていつもこんな目に遭うの?
「お願い…もうやめてよ、ライトくん…」
そうやって懇願するも、ライトくんからの返事がない。
「ライトくん…?」
聞こえるのは私が動く度に音を立てるお湯だけ。人の気配は感じられない。
「ライトくん…いるよね?」
不安になり、手探りでライトくんの姿を見つけようとする。確かこの辺りにライトくんがいたはずだ。
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