第14章 愛しの"アノ人"
「お花ちゃん、泣いてるの?」
「泣いてないよ…」
「目に涙浮かばせて言われてもねぇ」
呆れるように肩を竦めて笑うライトくんは、私の顎を掬うように持ち上げ、目尻にキスを落とす。
「ほら、もう行ったみたいだよ」
「…本当?」
「お花ちゃんが泣きじゃくってる間に、いつの間にかいなくなったんだねぇ」
それを知ってホッと安堵の息を漏らす。
「誰かにバレちゃうかも知れないって思って興奮したでしょ?」
「しないよ、もう…」
「でも体はぞくぞくって震えてたの、知ってた?」
「!」
正直、ライトくんのキスが気持ちよすぎて気づかなかった…なんて口が裂けても言えない。
「というかライトくん、キスしないでって言ってるのに何でまたしちゃうの!」
「お花ちゃんがもっとしてほしいって顔してたから、そのご期待に答えただけだよ?」
「そ、そんな顔してない!」
「またまたカマトトぶっちゃって。ボクとのキスが好きだって目が訴えてたよ」
「ライトくんの気のせいでしょ」
「まーったく、素直じゃないんだから」
ライトくんの話を無視してブラウスのボタンを留め直す。
「あれ?もうおしまい?」
「料理中なんです」
「ふーん…まあいいや。お仕置きも出来たし、今日は楽しかったよ、お花ちゃん」
「私は全然楽しくなかったけど」
「でも気持ちよかったでしょ」
「!」
私が何も言い返せず、悔しげに睨んでいると、ライトくんはどこか嬉しそうに笑う。
「ねぇお花ちゃん。ボクも一緒に、そのシチュー、食べてもいい?」
「…残さないって約束するなら」
「お花ちゃんが作った料理をボクが残すわけないじゃない!」
「じゃあライトくん、お皿出して」
「はーい」
「(ハァー…結局流されちゃったよ…)」
自分の甘さを責めた。
「(さっきの…本気じゃないよね?ライトくんが私を好きって。やっぱり信じられない。だって本当に私のことが好きなら…ちゃんと愛を向けてくれるはずだから。)」
機嫌が良さそうに食器棚から二人分のお皿を出すライトくんを見ながら、私は複雑そうな表情を浮かべた。
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