第1章 PROLOGUE-はじまり-
「それだけは本気で勘弁してください…」
にこりと圧のある笑みを見せたカナトくんに体が恐縮し、声が小さくなる。
「飲みかけの紅茶を残して帰るなど、そんなのこの私が許すと思っているんですか?」
「それはすみません。あの…美味しかったです、ローズヒップティー。薔薇の香りが際立って飲みやすかったです」
「貴女に紅茶の善し悪しが分かるとは到底思えませんが、満足して頂けたのなら結構。ですが飲み残しは見過ごせませんね」
「(温厚さのカケラも感じられない!!)」
「また女か。ハァ…めんどくさ」
「(早く…ここから逃げないと…どんどん話がまずい方向に進んじゃってる。)」
「良かったなぁ地味子。これでもう電車乗り過ごす心配もねぇし、学校との距離も近くなって安心じゃねーか」
「…むしろ不安の方が大きいんですけど。…って、あれ……?」
ニヤリと笑ったアヤトくんの"あるもの"を見て驚いた私は目を見開いた。
「ア…アヤトくん、それ…」
「あん?」
「その…口の中の…」
そして私は青ざめた顔で彼らに質問する。
「一つ、聞かせて…。アヤト達は…もしかして…」
「もしかして、なんだよ?」
「…ヴァンパイア…なの?」
その瞬間、周りの空気が冷たくなる。私は疑いの眼差しをアヤトくんに向けると、彼は可笑しそうに笑い出す。
「あーあ、あっさりネタバレかよ」
「じゃあ本当に…」
「オマエには黙っておくつもりだったのになぁ。オレらがヴァンパイアだってことは」
「(ヴァンパイア…アヤトくん達が…)」
心臓が嫌な音を立てる。その時、小さい頃から母にキツく言われていた言葉を思い出した。
『魔族と関わるな。特に"ヴァンパイア"は私たち天使に強い執着心を持っている。もしヤツらに目を付けられてしまったら終わりだ』
「(まずい!!)」
慌てて逃げようとすれば、ガッと腕を強く掴まれる。
「往生際が悪いなアンタ。まだ逃げられると思ってんの?この屋敷に足を踏み入れた時点で、アンタはもう逃げられないんだよ」
「放して…!!」
「もう諦めた方がいいぜ。アンタはこの屋敷で暮らすんだからな」
金茶色の髪に青色の瞳をした男の人が面倒くさそうにそう言う。
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