第8章 素直になれない天使と吸血鬼は
「案外、自惚れじゃねーかもな?」
「え?それってどういう…」
意味深に笑ったアヤトくんは顔を寄せ、私と唇を重ねる。
「……んっ……チュッ」
「んっ……」
「けどオレからはぜってぇに言わねぇ。だから早く言っちまえよ」
「何、を……?」
「オレのことが好きってさ」
アヤトくんがニヤリと笑う。その自信満々な態度にムッとした私は仕返しのつもりで言った。
「アヤトくんが先に好きだって告白してくれたら、私も言ってあげる」
「そこで張り合うなよ。素直にオレが好きだってハクジョーしろ。このちっせぇ口でさ。アヤトくんが好きって。」
唇を親指でなぞられる。
「そうすればオレも本気でオマエに伝えてやるよ。とびっきりのヤツをな。」
「その自信、崩してやりたい…。絶対にアヤトくんから言わせる!」
「はっ、そりゃ気の遠くなる話だな」
「案外近いかも知れないよ?」
「勝手に言ってろ」
呆れる訳でもなく、アヤトくんの声はどこか嬉しそうにも聞こえた。
「(大丈夫、アヤトくんがいれば何も怖い事なんてない。信じてみたい、アヤトくんが…私の運命の人だって。魔族との恋は許されないけど…それでも私は彼と一緒に呪いを解きたい。)」
掟を破っている事を申し訳なさそうに思いながら、私はアヤトくんに笑いかけた。
◇◆◇
【廊下】
「花の入浴剤で気分もルンルン♪」
桜の匂いがするシャンプーも使い、私の体は全身花の香りで満たされた。やっぱりお風呂に入ってる時が一番くつろげる。…まあ、ごくたまに邪魔が入るけど…。
「わ……っ!」
何かに躓き派手に転倒した。
「い…たた…っ」
「……………」
「しゅ、シュウさん!?」
私が躓いた原因は廊下で寝ていたシュウさんだった。
「シュウさん…こんなところで寝てると風邪ひきますよ?」
声を掛けるも無反応。
「(どうしよ…このまま放っておくわけにもいかないし…)」
廊下を見ても誰かが通りかかる気配はない。仕方ないので今度は少し強めに声を張り上げる。
「シュウさん!シュウさん!!」
「……うるさい。」
凄く不機嫌そうな声でシュウさんは起きた。
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