第8章 素直になれない天使と吸血鬼は
「勝手に怒ってごめんなさい。どうしてもアヤトくんがユイちゃんに吸血しているのが嫌だったの…だから悲しくてショックだったの…」
「まさか昨日の、見てたのか?」
私は無言で頷いた。
「あーそれでずっとキゲン悪かったのか。オレがチチナシの血吸ってんの見たら、嫉妬で泣き狂っちまったんだろ?」
「…泣き狂ってはいない」
「"嫉妬"は否定しねーんだな」
「……………」
「つーか泣きすぎ。目まで真っ赤にさせてさ。オマエの泣き虫は一生直んねーな」
アヤトくんが呆れたように小さな溜息を零す。
「…醜い嫉妬でごめんね。今までこんな…嫌な気持ち、抱いた事なんてなかったのに…アヤトくんと出逢ってから、いろんな感情の変化に戸惑ってばかり…」
「……………」
「ユイちゃんの血が特別なのは分かってる。でもやっぱり…アヤトくんが私以外の血を吸うのは…やだ…」
アヤトくんの顔が見えないのを理由に、私は涙声で自分の中の醜い感情を吐き出す。
「面倒くさくてごめんね…」
「ホントにな。ここまで重くてメンドくせぇ女、オマエくらいだろうな」
「っ…………」
「天使のクセにすげぇ嫉妬深くて、オレを誰にも渡したくねぇくらい独占欲が強ぇし、ちょっといじめたらすぐ泣くし、オレ様に反抗ばかりする生意気なヤツで腹立つけど…」
「(…酷い言われよう。)」
「それでもオレは、オマエの傍を離れる気はねぇし、逃がすつもりも、独りにするつもりもねぇんだわ」
「…アヤトくん」
「ククッ、どっちが重いんだろーな?」
驚いた顔でアヤトくんを見る。ここまで醜い感情を曝け出したと云うのに、何故かアヤトくんは嬉しそうに笑っていた。
「…幻滅したでしょ?」
「いや?」
「嘘…本当のこと言ってよ…」
「オマエの嫉妬深さは前から知ってるし、オレのことが好きで仕方ねぇのも知ってる。だから今更幻滅も何もねーよ」
「…アヤトくん。本当は私のこと好きでしょう?」
「…何でそう思う?」
「最初に会った頃と比べるとアヤトくんの表情、柔らかくなった気がする。私を見る目もなんだか優しい気がするの」
「だからオレがオマエを好きなんじゃねぇかって?」
「…自惚れかもしれないけど」
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