第8章 素直になれない天使と吸血鬼は
「(嫌だって言われても、それはそれで困るんだけど…ここではぐれたら絶対に生きて帰れない。)」
「クッ、いいぜ?」
「(あ…意外と簡単に繋いでくれた。)」
「今日はヤケに素直じゃん。…そういうオマエ、悪くねぇぜ」
「(私は卑怯なのかもしれない。あれほどショックなことがあったのに…アヤトくんと触れ合えただけで嬉しい気持ちが勝ってる。)」
「あー、そうだ。イイこと思いついたぜ」
「…いいこと?」
「コ・レ」
「それ…手錠?」
「そ、これで繋いでおきゃはぐれねぇだろ?」
「た、確かにそうだけど…」
何で手錠なんか持ち歩いてるの?
「一応聞くけど…まさかそれで私の両手を拘束するつもりじゃ…」
「ククッ、ナーニ疑ってんだよ。仕方ねぇなー。こうすりゃ安心だろ?」
そう言ってアヤトくんは手錠の片方を自分の手首に掛けた。
「先にオレの片手につけたぜ?…ほら、オマエも手出せよ」
「う、うん…」
本当に繋ぐだけ…なの?
「よし」
不安な気持ちを募らせる。アヤトくんは片方の手錠を私の手首に掛けた。
「ま、仕方ねぇから手も繋いどいてやる。光栄に思えよ」
「……………」
アヤトくんと手を繋ぐのってこれが初めてかも…
「相変わらずちっせぇ手」
「アヤトくんが大きいんだよ」
そんなことを言いながら水路を進んで行く。
「あ、アヤトくん…ちょっと奥まで来すぎじゃない?」
「ククッ、ダーイジョウブだって」
「でも…帰りのルート、ちゃんと覚えてるの?」
「覚えてるわけないじゃん」
「お、覚えてないの!?」
「心配すんなって。オレには瞬間移動って手があるしさ」
「そっか…」
「そんなことより…」
「え……んっ!」
「……チュ……」
アヤトくんは不意打ちで唇にキスをした。
「な、何?急に…」
「別に。なんだか今日は元気ねぇみたいだからキスでもしてやろーと思って。元気出たか?」
「…そうやって優しくしないで」
「あ?」
「キスすればいいと思ってるんでしょ」
「…オマエ何でそんなにイラついてんだよ?」
「……………」
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