第8章 素直になれない天使と吸血鬼は
『(以前ミカエルがあの男と接触した際に執拗に狙われたと言っていた。彼女は相手にしなかったが、それが余計にあの男の興味を強くさせてしまった事は紛れもない事実。)』
『ラファエル様?』
『(お嬢様だけは守らなければ。もし何らかの形で接触してしまえば、この子の運命は狂わされて、魔族と関わりを持ってしまうかもしれない。)』
『ラファエル様、どうしたの?』
ずっと険しい顔で黙り込んでいるラファエルを心配そうに見上げるメグル。
『何でもありませんよ。それで…今日は何の絵本を読みましょうか?』
『あのね、これを読んでほしいの!』
一冊の絵本を渡されるとラファエルは表紙を見る。そこには煌びやかな衣装を身にまとった少年と少女がお互いの手を取り、幸せそうに笑いあっている。
『イジワルな魔法使いさんに呪いを掛けられた女の子が一人の男の子と出逢って、最後には呪いを解いて二人で幸せに暮らすお話なの』
『!』
『とっても素敵な物語なんだよ!』
『……………』
ラファエルはパラッとページを捲る。
『(何故だろう。この絵本に登場する少女を…お嬢様と重ねて見てしまう。ありえない、お嬢様は呪われてなどいない。)』
『女の子の呪いを解く為に男の子と一緒に旅を始めるんだけど、その途中で嵐に巻き込まれたり、狼に襲われたり、色んなハプニングに遭うの!でも二人で協力して乗り越えて、最後は男の子の───……』
絵本の内容を一生懸命、説明するメグルを見て、ラファエルは悲しげに微笑む。
『(私は最低だ。この絵本のように、いつかお嬢様も誰かに呪いを掛けられて、苦しい思いをするのではないかと考えてしまった。)』
『ラファエル様ー?』
『(でも…いつか遠い未来の先で、お嬢様が呪いを掛けられたとしても、その呪いを解いてくれる相手は、絵本の少年のように、お嬢様を守ってくれる存在であれば良い。)』
ラファエルが頭を撫でると、メグルは目を閉じ、嬉しそうに笑った。
『ではこの本を読みましょう』
ラファエルは絵本を開き、メグルに読み聞かせ始めた。身分の違う二人の少年少女が出会ったシーンから少し読み聞かせると、ふとメグルがこんなことを言い出す。
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