第8章 素直になれない天使と吸血鬼は
『お嬢様…魔界という言葉は誰から?』
『この前、使用人達が話してた。勝手に魔界を降りた天使が帰って来ないって。自業自得だって。きっと魔族に捕まったんだろうって』
『……………』
呆れと怒りが混ざった顔でラファエルは額に手を当てる。メグルの前で魔界の話題は避けていた。もし耳に入ってしまえば興味本位にミカエルやラファエルに質問してしまうから。
『(その使用人達を見つけて厳重に注意しなければ。屋敷を自由に動き回れるお嬢様が聞いていないとでも思ったのだろうか。)』
『ラファエル様?』
『…そうですねぇ』
『もしかして良いところ?』
『いいえ、魔界は怖いところです。私達のような天使にとって悪影響を与える場所。だから不用意に魔界に行ったりしたら駄目なんです』
『そんなに怖いところなの!?』
『魔界には魔族という種族がたくさん暮らしています。天使と魔族は仲が悪いのですよ』
『そうなの?仲が悪いから神様の言い付けで誰も魔界に行っちゃダメなの?』
『お嬢様は天界の掟をご存知ですか?』
『うん、知ってるよ』
天使が暮らす天界には神が作った掟が存在する。"天界から出てはいけない"、"魔族と関わってはいけない"、"魔族と恋仲になってはいけない"。もし破れば重い罰が下る。但し、例外は除く。それが天界で暮らす者の掟だ。
『魔界で暮らす魔族は私達を利用する者ばかりで信用なりません。天使が珍しいからと捕まえて無理やり血を奪い、そして最後は…』
ふと視線をメグルに向けると、ラファエルの話に怯えたメグルは泣きそうな顔で目をウルウルさせている。
『…お嬢様、約束して下さい。魔界には興味を持たないと。もしお嬢様が"アイツ"に見つかってしまえば…』
『?』
ラファエルは憎らしげに顔を歪める。
『ラファエル様…お顔が怖いよ…?』
『あぁ…申し訳ありません。怖がらせてしまいましたね。お嬢様にそんな顔をさせたなんてミカエルに知られたら叱られてしまいます』
優しく微笑んだラファエルはメグルを抱き上げ、膝の上に乗せる。
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