第8章 素直になれない天使と吸血鬼は
「(お願い…私だけを見て───。)」
ズルズルと座り込み、両手で耳を塞ぐ。その時、ふと人の気配を感じ、目を開ける。
「!」
暗闇に紛れて誰かが立っていた。
「……ミカエル」
「(…どうして母様の名前を!?)」
「フン…親子揃って忌々しい」
憎らしげに呟いた男は消えてしまった。
「(何…誰だったの?)」
もうそんなことどうでもいいか。今はただ、この場から早く離れないと。
「(水も飲む気なくなった…)」
ふらつく身体をなんとか動かし、私は自分の部屋へと戻った。
◇◆◇
『お嬢様、ご気分は如何ですか?』
『ラファエル様!』
『昨晩体調を崩されたと聞いて心配しました。もう起きてても平気なのですか?』
『うん!母様にもちゃんと許可もらったよ!』
天界で暮らしていた頃、まだ幼かったメグルは屋敷の外に出る事を禁じられていた。
四大天使の一人である母親のミカエルの力を引き継いで生まれた為、その強大な力を上手く制御出来ずにいたからだ。
『昨日はね、母様と一緒に天使の力をコントロールするための修行をしてたの。でもまた暴走させちゃった…』
『そんなに落ち込まないで下さい。例え暴走してもミカエルが助けます。そんなに焦らずともゆっくりコントロールしていけば良いのです』
『でも…何度やってもダメなの。こんなんじゃ母様に"ダメな子"だって思われちゃう…』
『それは違いますよお嬢様』
しゅんと落ち込んだメグルの頭を優しく撫でながらラファエルは柔らかな表情を浮かべる。
『ミカエルはお嬢様を大切に思われています。貴女が彼女の生きる全てなのです。だから何度失敗しようとミカエルはお嬢様を"ダメな子"などとは思いませんよ』
『そっか…うん、そうだね!母様は私のことダメな子なんて思わない!だって母様はすごく優しいもん!』
花が咲いたようにパッと笑顔になったを見てラファエルは安心したように笑んだ。
『あのねラファエル様、聞いてもいい?』
『どうしました?』
『魔界ってなぁに?』
『!!』
ラファエルは驚いた顔でメグルを見た。
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