第8章 素直になれない天使と吸血鬼は
「や……っ、痛……!あ、アヤトくん!?いたっ、い……っ」
「………っ、……はぁっ。」
嫌がるユイちゃんを押さえ付けて、アヤトくんは血を啜り続ける。
「(あの時の私と一緒……)」
「はぁ……はぁ……っ」
何かに憑かれたようにアヤトくんはユイちゃんの血を啜った。
私はそっとドアから離れる。
「(…分かってた。彼女の持つ血は特別だって。だからみんな、ユイちゃんの血を求めるんだって。アヤトくんもその一人だって…分かってた。)」
ポタッ
「(アヤトくんだってヴァンパイアだもん。極上の血には抗えない。だから別にショックを受けたりなんてしない。)」
ポタッ
「(全然悲しくないし、傷付いたりもしない。これで私に興味を失くしてくれたら、前のような生活に戻れる。アヤトくんと出会う前の私に……。)」
ポタッ
「(告白する前で良かった。これでアヤトくんを想う気持ちを消すことができる。私にとっての特別な人は…アヤトくんじゃなかったんだ。愛を与えてくれるのは…アヤトくんじゃない。)」
ポタッ
「(アヤトくんだってユイちゃんの方がいいに決まってる。抱きしめてくれたことも、キスしてくれたことも、アヤトくんの単なる気まぐれだ。きっとそうに違いない。)」
ポタッ
「(あれ……?視界がぼやけてる?なんだか目頭も熱い気がする。)」
ポタ……ッ
「(頬を伝う雫を拭ってみたけど、また目から溢れてくる。今度は両目から。どんどん…溢れて…止まらない。)」
ポタッ……ポタッ……
「ふっ……うぅぅ〜〜……」
あぁ……泣いてるんだ、私……。
「うっ……ひっく……」
部屋の中の二人に気づかれないように、口を手で覆って、声を押し殺して泣く。
「(アヤトくん、どうして…?私が血をあげなかったから我慢ができなくてユイちゃんの血を貰いに行ったの?彼女の血は私のより美味しいの?私の血はもう飽きちゃった……?)」
自問自答しても血に夢中なアヤトくんからの返事は返ってこない。
「(ねぇアヤトくん、私を独りにしないで。あなたがいないと…寂しいよ。)」
未だに聞こえる彼女の甘い声と彼の血を啜る音を聞いながら私は目を閉じる。
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