第8章 素直になれない天使と吸血鬼は
「(アヤトくんと繋がってしまった。魔族の血を体内に取り込んでしまった。母様にあれだけキツく言われていたのに…どこからおかしくなり始めたの?)」
『果たして君は何を犠牲にして、特別な者からの愛を求めるのか、楽しみにしているよ──』
「(…そうだ。あの夢で会った男のせいだ。そいつの声を聞いた瞬間から、おかしかった。)」
私には何の恨みもないと言っていた
でも試練のために呪いを掛けた
私と"特別な者"に与えられた試練なのだと。
「(…ほんと許せない。私の幸せを願うとか言っておきながら呪いを掛けるなんて矛盾してる。随分と身勝手で最低なヤツ…。)」
『もし特別な者と出逢えず、永遠の愛を手に入れられることができなければ…君に訪れるのは死だ』
「(そんな人…現れるのかな。呪いを解くために下界に来たけど…まだ見つからない。)」
でも…アヤトくんとは出逢えた。彼は私の"特別な者"なのだろうか。…全くそうは見えない。むしろ魔族が"特別な者"なんてあり得ない。早く探さないと…私に訪れるのは死だけ。
「(もしアヤトくんが私の運命の相手じゃなかったら…別の人からの愛を貰うんだよね?それは…ちょっと…いやだな。)」
だってもう、引き返せないところまでアヤトくんを求めてしまってる。
「今更アヤトくん以外の人となんて…」
私、悪い子だ。天使は魔族を毛嫌いしてる。母様も魔族を嫌悪して話題に出すことすら嫌いだ。ヴァンパイアに恋すること自体、罪深いのに…私がそれを破ってしまった。
「きっと母様が生きていたら叱られるな…」
ズク…ッ
「うぐっ!?」
突如、胸に激痛が走り、ベッドに倒れ込む。
「(痛い!!いつもの胸の痛みじゃない!!まるで何本もの針で心臓を刺されているような痛みだ…!!)」
冷や汗を浮かべた苦痛の表情で胸を押さえる。
「はッ…はぁ…ッ…あ、ぐ…ぅ…誰か…はッ…アヤトく…」
涙を浮かべながらアヤトくんの名前を呼ぶが、その声は届かない。私は目を瞑り、痛みが治まるのを必死に堪える。
「はぁ…はぁ…っ…」
少しずつ胸の痛みと苦しさが和らぎ、呼吸を整えてからゆっくりと上体を起こす。
「…前より酷くなってる。もしかして呪いの進行が進んでる…?」
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