第8章 素直になれない天使と吸血鬼は
「う、自惚れないで。血の匂いが変わったのは別にアヤトくんに堕ちたからとかじゃないし…!」
「ホント素直じゃねーな」
「うるさい…」
「あ?このアヤト様に向かってうるせぇだと?地味子のくせに生意気だ!」
「アヤトくんの方が生意気じゃない!」
「オレ様を盗られたくなくて泣いて嫉妬したくせによ!」
「っ………!!」
「ほらな?オレが好きって言ってるようなもんだろ?」
アヤトくんはふと笑う。
「だから新しい血の味、確かめてやるよ」
「え……ちょ、ちょっと待って!」
「待たねぇ。もう充分待ってやっただろ」
「ここで吸うの……?」
「家入るまでとか我慢できねぇ」
「で、でも……」
「チッ、いいからさっさと吸わせろ…!」
強引に血を吸おうとするアヤトくんにハジメテを奪われた日の恐怖が甦る。
「(イヤ……怖い───!!)」
血を啜りながら、身体も無理やり繋げたアヤトくんに、私の身体は小刻みに震え出す。
「や、やめて……!」
「あっ!待てメグル……!!」
血を吸おうとするアヤトくんを振り切り、私は走って屋敷の中に入り、自分の部屋へと逃げ込んだ。
◇◆◇
【自室】
「はぁ、はぁ……っ」
バタンッとドアを閉め、背を預ける。どうやらアヤトくんは追って来ていない。私はホッと安堵の表情と共に息を洩らす。
「今日のアヤトくん、少し様子が違ったような気がする…」
強引なのはいつものことなのだが、変に違和感が心に残っていた。
「逃げてきちゃったけど…平気だよね?」
後でお仕置きされたり
いじめられたり、しないよね……?
「はぁ……怖かった」
鞄を椅子に置き、制服のままベッドに腰掛ける。ポケットに入れていた懐中時計を取り出す。
「母様…会いたい」
蓋を開けると内側に天使族しか読めない文字が刻まれている。
【-δθξλΨ-】
"いつも貴女の傍に"
それを見て寂しくなり、懐中時計を握りしめた手を額に当てる。
「母様…私、どうしたらいいの…?」
聞いても返事が返ってこないことは分かっている。それでも聞いて欲しかった。
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