【鬼滅の刃】杏の木 ♦ 煉獄 / 長編 / R18 ♦
第4章 アヤメの花言葉
「私はそれが辛い。好意は本当に嬉しいのです……でも彼のその判断が正しいとは思えない」
ふうむ、と槇寿郎は少しうなると、肘をついた手で自分の無精ひげを撫でながら、少し考え、それからゆっくりと声を出した。
「その耳飾り、瑠火のだろう。そうだな、話をしよう。俺と瑠火の」
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「……と、まあこういう訳だ。だから瑠火も…お前が気になったのかもしれないな。俺も若かったが、判断を誤ったなどと思ってはいない、ましてや後悔などした事もない。むしろ……瑠火は俺よりも強い人間だ」
そう締めくくる槇寿郎の顔は、いつの間にかとても柔らかい表情を浮かべていた。
「そう泣くな。酒が不味くなるぞ」
すっと立ち上がり寝室の奥の戸棚から、柔らかな藤色の布の包みを持ってくると、蛍の横に腰を下ろし、おもむろにその包みを開けてみせると、そこには見た事もないような、美しいガラス細工のアヤメの宝飾品が輝いていた。胸飾だろう。繊細なカットとその透明度、色彩が、上等なものだと言われなくてもわかるぐらいに美しい。
そして、その宝飾に蛍は心当たりがあった。
「白いアヤメは珍しいだろう。花言葉があったのだが…」
「……あなたを大事にします」
槇寿郎にとっては、蛍がそれを知っている事が驚きだったのだろう。少し驚いた顔を見せていた。
「アヤメは杏寿郎の誕生花でしょう?少し前に杏寿郎から似たものを頂きました」
「あいつが?」
少し気まずそうに槇寿郎が視線を外す。彼と瑠火の話を聞いてから止めどなく流れた涙と嗚咽が、ようやく、少しずつだが落ち着いてきたので、声を出す事ができた。
「アヤメを選んだ時の、杏寿郎の笑顔。槇寿郎さまにも見せてあげたかった」
「ふん…」
さも興味なさげに鼻であしらうが、その顔を見ればそれが嘘だというのはすぐにわかる。だから蛍も言葉を続けた。
「……縁談の話は断ってください。私の幸せはそこにはないと思います。答えもまだ出ていない、自分の道もまだ見えていませんが、それだけは間違いないと思います」
「そうか。前にも言ったが、俺はお前を本当の娘の様に思っている。だから、血生臭く無意味に死に兼ねない鬼殺隊などやめて欲しいのだがな」