【鬼滅の刃】杏の木 ♦ 煉獄 / 長編 / R18 ♦
第4章 アヤメの花言葉
部屋へと戻ると、さっさと布団を敷き横になる。明かりを消し、ぼんやりと虚空を眺めていると、真っ暗だったそれが、ちょっとずつ目が慣れ、いつもの見慣れた天井が見えるようになる。
ゆっくりと瞳を閉じると、今までの自分を思い出した。何度も前を向いては、その度に挫折してきた。頑張っては諦めて。希望を持っては絶望したり。そんな自分が嫌いだった。
でも、槇寿郎の話を聞いていると、そんな自分がいてもいいんだと、そういう肯定感を抱ける気がした。血筋も才能もない自分が、何の取り柄もない自分が、ここにいてもいいのだと言って貰えた気がした。
いや、杏寿郎も槇寿郎も、そもそも否定などした事はない。むしろいつも温かく、二人とも包容力に優れた人間だ。結局は自分で自分が許せないが為の、独り相撲なのかもしれない。きっとそうだろう。
もういい大人だ。そろそろ自分を認めてあげてもいいのかもしれない。でもそれにはまだ、どうしてもあと一歩、何かが足りない気がしてならなかった。
再びゆっくりと瞳を開く。横を向けば、机に置いている杏寿郎に買ってもらった髪飾りが目に入った。彼を愛しているなら、そろそろ決意を表してくれた人間への誠意を示さなければならない頃だろう。そんな事を考えながら、蛍は再び目を閉じると、抗えない睡魔に従い、夢の中へ落ちていった。