【鬼滅の刃】杏の木 ♦ 煉獄 / 長編 / R18 ♦
第4章 アヤメの花言葉
しっかりと蛍の真正面に向き合い、杏寿郎はその手で彼女の両手をしっかりと握りしめた。背丈と一緒でいつの間にか蛍よりも大きく、力強くなったその手は、熱を帯びているのがわかる。
「蛍が俺を好きと言ってくれている。それでいい。でも俺も待つのは辞める」
「え?」
やっと顔をあげ、杏寿郎の顔を、その大きな瞳を見つめると、案の定、その大きな両の瞳は蛍を真っ直ぐに捉えていた。
「君が自分に自信が持てない事を、俺は知っている。それを拭いきれないのは、要するに、まだ俺の器量が足りないのだ」
それは違う、と言いたかったのに、杏寿郎の少しだけ寂しそうな顔を見ると、そしてその瞳に見つめられると、いつもの様にまた何も言えなくなってしまう。
「俺も、もうすぐ甲になれるだろう。そして甲になれば、柱になれる。柱になれば、父上も認めてくれるかもしれない。そして父上もきっと今より苦しまれずにすむかもしれない」
「……うん。杏寿郎ならなれるよ。きっとなれる」
杏寿郎の両の手を、蛍もぎゅつと握り返した。
「私ずっと、小さい頃から傍で見てきたからわかる。槇寿郎さまも、お喜びになる」
それを聞くと、杏寿郎も朗らかに口元を緩めた。
「……そうだといいが。今日は買い物に来ただけだったが、母上と父上の話を聞けて良かった。俺も2人が誇れる柱になる。煉獄家として相応しい男に」
蛍の両手にそっと自らの掌を、改めて重ねる。
「これを言うのは何度目だろうな!その時は…蛍のこの指に指輪を付けさせて欲しい」
満面の笑みを浮かべているが、蛍には意味がわからなかった。そんな呆気に取られている彼女を置いていくように、杏寿郎も続ける。
「西洋の国では、夫婦となる約束として、お互いの薬指に指輪を装着すると聞いている」
杏寿郎が蛍の左手の薬指を、つつっと自らの人差し指でなぞる。
「君にも、指輪を送りたい。好きだと言うのも、夫婦になろうと言うのも初めてじゃないが、今日は何も言わないで聞いてほしかった」
蛍の掌を自らの頬に当て、目を閉じて杏寿郎は続けた。