【鬼滅の刃】杏の木 ♦ 煉獄 / 長編 / R18 ♦
第4章 アヤメの花言葉
年に似合わないしっかりとした挨拶ではあったが、その笑顔は年相応の少年に相応しいもので、心底嬉しそうなその笑顔は彼の母、瑠火にとてもよく似ていた。
(この人、本当は母親似ね…)
その風貌から、つい父親とそっくりだといつも思ってしまうが、本来の顔立ちと、普段はあまり見せる事のない、ふと現れるその柔らかな笑みを浮かべた顔は母親そっくりなのだ。
そんな事を思いながら、店を出る杏寿郎のあとを付いていく。入口まで見送ってくれた店主に深々と頭を下げる。彼はふたりの姿が見えなくなるまで見送ってくれていて、その人柄がよく伝わってきた。帰路に着く頃には空はすっかり闇に染まり、周りは明かりで煌びやかに輝きはじめている。
「あの……ありがとう。まだお礼、言えてなくて」
横に並んで、おずおずと礼を言う。いつからだろうか、背丈はとうに抜かれ、少し見上げなければならなくなっていた。
「ああ!礼などいらんぞ!俺が好きにやっただけだ」
いつもの明るい笑顔で杏寿郎は答えた。だが、ふと歩みを止め、ぼそりと呟く。
「母上の白いアヤメの胸飾り…見たことがない。どこかにあるのだろうか」
手を顎に当て真剣に考えている。そんな彼に蛍はにっこりと笑って言うのだった。
「そんなの考えなくてもわかるわよ。槇寿郎さまがお持ちになっているに決まっているじゃない」
さも当然という蛍の微笑みに、杏寿郎は少し考えたあと、また微笑み返してきた。
「そうか!そうだな!父上と母上は本当に仲が良くて…それがひとつの形として残っていた事が俺は嬉しいと思っている」
その笑顔が本当に、あまりにも嬉しそうだったので、#NAME1#もまた嬉しくなり、微笑み返す。
「さあ、帰りましょう。千寿郎くんが待っているわよ。今夜は約束したでしょ?」
杏寿郎の左腕にぴょんっとくっつくと、その腕をひっぱり早足で駆け出した。それに合わせて彼も歩みを早める。
「#NAME1#」
呼ばれ、手を引っ張ったまま後ろを振り向くと、金色の髪を風に靡かせ真剣な面持ちの彼の姿があった。
「杏寿郎?」
その風貌が直視できないぐらい美しくてドキドキしてしまうのを、悟られないように平静に務めて答える。だけど、彼の質問はもっと蛍を動揺させるものだった。
「……俺ではない、誰か好きな男はいるか?」
「えっ」