【鬼滅の刃】杏の木 ♦ 煉獄 / 長編 / R18 ♦
第4章 アヤメの花言葉
杏寿郎は蛍の頭に合わせるように、彼女の耳の上の当たりに当ててみて、少し眺めてからにっこりと笑った。
「うむ!よく似合っている!」
「だから、こんな高価なもの、私は…」
あわあわと手を振るが、既に杏寿郎は支払いの算段を取り始め、さっさと会計を済まそうとしている。
「そうだ、ついでに髪結いを貰えるか?」
杏寿郎が言うと、すぐに店主がそれを持ってくる。何の変哲もないただの紐だが、真っ赤な色がとても目立つ紐だ。それを受け取ると、そのまま蛍に手渡した。
「本当は俺が結ってあげたいところだが、そういうのは不器用でな!すまないが自分で結んでくれ」
もうこの流れを変えるのは無理だ。そう諦めて紐を受け取ると、髪を全て左側に纏める。手櫛で軽く整えてから、器用にきゅっと紐を結んだ。
「……こう?」
「…!」
ドクン……
傍目には分からないが、杏寿郎の心音が跳ねた。蛍がくるりと後ろを向いて見せる。
「うむ!ここからなら俺でも出来るな!」
その結んだ部分に、アヤメの髪飾りを差しこんだ。ほんのりと茶色みのある髪に、真っ赤な紐と艶やかなアヤメの紫が映える。蛍が正面を向くと、ちょうど左耳の上にアヤメの花が咲いている様だった。
「よく似合っておられますよ」
「ああ!よく似合っている!」
二人から褒められると、蛍も悪い気はしないもので、今までとは違い、初めて嬉しそうに、そして少し照れた微笑みを浮かべる。
「お嬢さま、アヤメの花言葉はご存知で?」
勿論、その様なものを知るはずもなく、蛍は首を横に振った。
「アヤメは外来語でアイリスと言うそうです。花の色によって花言葉が違うのですが、お嬢さまがされている紫色は希望……」
そして今度はゆっくりと杏寿郎の方を向いて言葉を続ける。
「そして、お父上が瑠火様に送ったものは白く、その花言葉は、〈あなたを大事にします〉というそうです」
にこにこと語る店主を前に、杏寿郎の顔が優しくほころんだ。柔らかな笑みで店主に礼を述べる。
「……失礼した、まだこちらから名乗っても居なかったな。俺は煉獄杏寿郎。あなたの心遣い、心から嬉しく思う」