【鬼滅の刃】杏の木 ♦ 煉獄 / 長編 / R18 ♦
第1章 序章
どれだけ畏まっていても、子どもは子どもである。
ひとたび一緒に遊び始めれば、年相応の無邪気な笑みを浮かべ、楽しそうに駆け回る。
「えい!」
一番年下の杏寿郎が転がっていた枝を振りかざす。
「甘い!」
5歳とは思えない鋭いひと振りを既の所で避け、蛍は笑いながら杏寿郎を煽ってみせる。そんな姿を見ながら、耀哉は1歩離れたところでくすくすと微笑んでいる。
そんな子たちの戯れはいつまでも見ていたくなるほど、とても平和な情景だった。
「……私はもう長くはない。炎柱よ、あの子たちを頼むぞ。耀哉は母に似たのか、とても聡明だ。きっと立派な大人になるだろう」
「心得ております。あれも瑠火に似ている。きっと耀哉様のお役に立てる立派な隊士になっているでしょう」
「ありがとう、炎柱よ。我が産屋敷家は隊士を支えているのではなく、支えられているのだ。心より感謝する…」
そう言ってゆっくりと立ち上がる。奥方に支えられてやっと立ち上がる姿からも、残された時間がもう殆どない事が見て取れる。
こちらを振り向く事もなく、当主は続けた。
「ゆっくりしていくといい…私は少し休ませてもらうとするよ」
その背中に槇寿郎と瑠火は敬意ををもって一礼をする。
「父上!聞いてください!」
と、顔を上げるよりも早く、息子の声に振り返ると、そこかしこに擦り傷を作った杏寿郎の姿があった。
「私はどうあがいても蛍に負けてしまいます!」
杏寿郎がいつもの大声で父親に報告すると、蛍は慌てて持っていた枝を後ろに隠すと、バツが悪そうに頬をぽりぽりと掻いている。
「ほう。4つ年の差があるとはいえ、杏寿郎が手も出ないというのは凄い。今度はこの私がみてみよう。杏寿郎、もう一度やってみろ」
「はい、父上!」
言うや否や、杏寿郎は持っていた枝を腰に添え、まるで抜刀するかのように、左半身を下げ半身で構える。
ひと呼吸息を吸い、ふっと呼吸を止めると同時に、右足からもの凄い勢いで駆け出すと、目にも見えない早さで一直線に蛍へと駆け寄った。
蛍もまたそれを黙って見ているわけではない。持っていた枝を片手から両手に持ち替え、真っ正面に構える。