【鬼滅の刃】杏の木 ♦ 煉獄 / 長編 / R18 ♦
第4章 アヤメの花言葉
「そうですね、あ!それにまだ僕の勉強も残っています!」
家にいる時は出来うる限り、蛍が千寿郎の座学も見ている。だがその口ぶりから、今日は兄に見て欲しいのだろう。
「うむ!今宵はこの兄が見てやろう!」
それを聞くと、ぱあっと千寿郎の顔に明かりが灯る。
「だが、夕餉まではちょっと蛍を借りるぞ、千寿郎」
「へ?」
いきなりの事に蛍の方が目を丸くする。そんな事は何も聞いてない。
「少し町に出るが、夕餉の頃には戻る。準備は出来ているのであろう?その後、今日はずっと千寿郎の側にいよう!」
「はい!では僕は戻ります。とても楽しみです!」
心底嬉しいのだろう。幼さの残る顔の、柔らかそうな頬が桃色に染まっていた。
「…で?町に行くの?今から?」
「ああ、早く着替えてくるといい!ここで待っている!」
稽古用の袴姿で汗もかいている。確かにこの姿で町を歩く気にはなれない。
「じゃあ……うん、着替えてくるけど。千寿郎くんも、一緒に戻りましょう」
そう言うと、千寿郎の背中に手を回し、二人で屋敷に戻っていった。その姿を杏寿郎は愛おしそうに見つめていたのだった。
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夕暮れに染まる町を、杏寿郎と蛍は並んで歩いていた。二人とも背が高く、特に杏寿郎は見た目からして目立ってしまう。それがほんの少し、こそばゆかった。
せっかちな彼の歩みについていくのは大変だったが、それに気付くとすぐにペースを緩めてくれる。黙ってこういう気遣いのできるところも杏寿郎の魅力であることを蛍は知っている。
「うむ!確かここであったはずだ!失礼する!」
大通り沿いにある、きらびやかな町並みに並んだ店に入る。慌ててくっついて入るまで何の店かもわからなかった。
そこには、蛍が今まで見た事もない、色とりどりの宝飾品が並んでいる。こういうのがさっぱりわからない蛍にも、高価なものばかり並んでいるの事がわかるほどに、店の中はキラキラ輝いていた。
中にはモダンな洋服を着た紳士や、美しい着物を着飾った夫婦などがちらほら見受けられた。そうなると、急に自分が場違いなところにいる気がして、気恥ずかしくなってしまう。
「きょ、杏寿郎…!?なに、このお店……」