【鬼滅の刃】杏の木 ♦ 煉獄 / 長編 / R18 ♦
第3章 鬼の血の子と稀血の柱 ※
「…お見通しね。でもそれもお互いさまよね?貴方もいるんでしょ、大事な女性が」
ずっと気になっていた事だった。実弥から何かを言うことはなかったので、直感でしかなかったが。ただ今なら聞けそうな気がして、さらっと言葉を流してみる。
「……わからねェ。いたかもしれない」
「いた?」
見た事のない切なげな実弥の表情に、思わず聞き返してしまう。
「……さぁなァ。もう確認のしようがねェからよ」
普段は絶対に見せないような柔らかく、それでいて切ない表情に、蛍の胸に罪悪感が込み上げる。聞いてはいけない事だったのだろう。
「…ごめんなさい。私そんなつもりじゃ」
「いや、いいんだ。気にしてねぇよ」
実弥の顔を直視できなくて、彼のむき出しの胸へと顔を埋める。ふと蛍の頭に、槙寿郎がよく言っていた言葉が浮かんだ。
「昨日まで当たり前にいた仲間が、今日突然に死んじゃう事はよくある事……」
今までに何度も聞かされたセリフだ。無意識に声に出してしまう。これを言う槙寿郎はいつも、今の実弥みたいな顔をしていた。
実弥は何も言い返しては来なかった。つまり、そうなのだろう。きっと今までに大切な人をいっぱい失ったのだ。
「私はまだ幸せね。そもそも実の親の記憶がないし、誰も失ってないんだもの」
「そうだなァ。だからそれを大事にしろよォ」
たとえそれが恋愛じゃなくても、彼なりに蛍に好意はあったし、彼女もそれは同じだった。
もし、これが好きな相手だったら唇を重ねたいと思うのだろう。実弥と関係を持って初めてわかった事だった。好きという気持ちは唇に正直に現れる。肉体的な欲望ではなく、精神的な繋がりを求める時に、唇というものは重ねたくなるものなのだと。
今はどちらかというと抱きしめたかった。やり場のない切なさも悲しさも忘れたい。そういう時はどうすればいい?
「……髪が伸びたなァ」
「邪魔?」
実弥に初めて会ったあの時、髪紐を無くしたついでに、一度髪を切っていたのだが、あれから3ヶ月も立てばまた結びたくなるぐらいには伸びてきている。
「いや……」
実際は長い髪の方が好きだったが、そこまでは口に出さずに代わりにその髪に指を絡める。誘う様な瞳で蛍が見つめてきたので、それに応えるように彼女に覆いかぶさった。