【鬼滅の刃】杏の木 ♦ 煉獄 / 長編 / R18 ♦
第3章 鬼の血の子と稀血の柱 ※
仕事は終わったが、敢えてゆっくりと帰路につこうと思う。千寿郎が心配するかもしれない。でも、屋敷に戻るまでにはこの興奮を収めたかった。だから、ゆっくりゆっくりと、歩き始めた。
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それから数ヶ月、蛍と実弥の関係はとても自然に続いていた。
柱の邸宅を知る隠はとても少なく、それだけに実力と信用のある人物にしか任せられる事はなかったが、その点において彼女は耀哉からの信頼も厚く、よく任せられていた。
実身の邸宅に赴いて、仕事をしたら、お茶を入れ、そして肌を重ね合った。時間が早ければ、彼が稽古を付けてくれる日もあったし、次の日が休みの時は泊まって行くこともあった。
それでいて恋仲ではない事が、この距離感が、お互い心地良いのかもしれない。
今日もまた、仕事をしてから情事を終え、ついそのまま午睡をしてしまった。日の差し具合と朝餉しか食べていない腹具合から、正午はだいぶ過ぎてしまったのがわかる。
(おなかすいた…)
ぐううう…と胃袋が音を立てる。横には実身がまだ静かに寝息を立てていた。
蛍だけが起きている時はいつもチャンスとばかりに彼の顔をまじまじと見てしまう。酷い傷ばかりに目が行ってしまうが、とても端正な顔立ちで、睫毛が長く美しい。起きている時とは比べものにならないぐらい穏やかな顔で、蛍はこの顔を眺めるのが好きだった。
「もっと笑えば可愛いのに」
「……うるせェ」
寝ていると思っていた実弥が返事をしたので、少しだけ驚いた様子で蛍は微笑んだ。
「おはよう。お腹すいたからご飯にしよう」
「…帰らなくていいのか?」
いつもすぐに帰るので、今度は実弥の方が少し驚いた様子で聞いてくる。
「今日は夕方までは大丈夫。でも夕方には帰らないと、槙寿郎さまは任務に行かれるから」
「ふん…本当に行くか怪しいもんだがなァ?」
実弥が槙寿郎の事を良く思っていない事は知っていたが、それでも蛍にはその悪態を許す事はできない。
「あ痛っ…」
瞬時に実身のほっぺたを抓る。かなり本気で抓ったので、少し赤くなってしまった。
ふんっと少しふてくされて、布団を被ったまま反対側を向いてしまった実弥に、後ろから手を回して抱きつくと、蛍は静かに囁いた。