【鬼滅の刃】杏の木 ♦ 煉獄 / 長編 / R18 ♦
第3章 鬼の血の子と稀血の柱 ※
馬乗りになったまま片膝でぐっと鬼の体を押しつけ、今度は左腕を断ち切った。
苦痛と怒りに鬼の顔が歪んでいくのがわかる。
「もうすぐしたら、本当の鬼殺隊が来てくれる。だから、死ぬのはほんの少し、後ね」
血の滴る短刀に全体重を乗せ、一気に鬼の首を断ち切りにかかる。
(…いける!!力で押し切れる!!)
相当な抵抗を感じるが、そのまま刀をずぶずぶと喉元に鎮め、地面に当たる感触を感じた瞬間、その頭部がごろんと転がった。
「忌々しい鬼狩りめ……!覚えていろ…」
首と胴が両断されてもなお、悪態をつき、まるで何事でもないかの様に頭部だけでしゃべり続ける鬼の異質さには嫌悪感しか沸いてこない。
「そこが本体かしら?もう胴の方は動けないようね。夜明けまでに再生できる?」
地面に突き刺さった短刀を抜き、今度は一気に鬼の頭部に突き立てる。柔らかい頬から入り、脳髄と頭蓋骨を貫いて、再び刀は地面へと到達した。
文字通り頭を地面に串刺しにされ、身動きはおろか言葉を発する事もままならない状態の鬼の姿のなんと無惨なことか。それでいて可哀想とか痛々しいとかいう感情は一切沸いてこなかった。
「さあ、夜明けまでに脱出できる?でももう、隊士さまがご到着のようだから、私は引き上げるわね」
遠くから隊士がこちらに向かってくるのがわかる。今の研ぎ澄まされた感覚とはいえ、こちらが悟る事ができるぐらいだから、下級隊士だろう。この鬼も強くはなかった。さっと身を翻し、宵闇の向こうへ姿を消す為に走り出す。
走り出して気付いたが、走り、鬼を倒し、そしてまた走り出す今、息ひとつ上がってなく、疲労感もなかった。「鬼を倒した」という喜びが相まって、ただただ高揚感が高まるばかりだった。
(これが…稀血の力……)
もしかしたら一度は諦めた鬼殺隊士にまたなれるかもしれない。なれなかったとしても、今よりは強くなれる。鬼にも勝てる。そう、今なら思い出したくもない選抜の時にいたあの強力な鬼にも…。
自分の掌をぎゅっと握りしめると、胸に灯った熱い思いを感じる。
遠く離れた場で遅れて来た隊士が鬼を仕留めている様を確認し、今日の任務が終わる。
(今日は眠れないかもしれない…)