【鬼滅の刃】杏の木 ♦ 煉獄 / 長編 / R18 ♦
第3章 鬼の血の子と稀血の柱 ※
「ほぉ、やるじゃねぇか。折るつもりだったんだが」
(なんてやつ……!)
次の攻撃が来たらもう防げない。それでも許しを請う気にはなれなかった。
痺れて上がらない左腕をかばう様に、右側を前にして半身の構えを取る。だが、数秒待っても次の攻撃は飛んでこなかった。
「面白いじゃねぇかァ…だが勉強不足だな?俺は…稀血だ」
「……稀血…?」
聞いた事のあるその言葉。確か、鬼を引き寄せる100人に1人もいないぐらい珍しい血で、稀血を食した鬼はとても強くなるという。
「テメェがさっきぶっ倒れたのは何でだと思う?」
言いながら実弥は自らの爪で腕に一筋の線を引く。白い肌に真っ赤な線が走ると、血液がぽたぽたと畳にこぼれ落ちた。
「……なに……これ……」
途端に広がる甘い香り。体が熱くなり、脳が痺れる。やがて動けなくなる事が自分でもわかるぐらい急速に酩酊していくのがわかった。
「うっ……おえっ………」
無理矢理体を動かそうとすると、胃袋がひっくり返ったような気持ち悪さを覚え、嘔吐してしまった。
「鬼にもよるが、大概はそういう風に動けなくなる。酔っ払うようなもんだァ」
とうとう立っていられなくなり、蛍は膝をついた。
(おかしい…私の……体……これは…)
早鐘の様に脈打つ心臓が締め付けられる。体が熱を帯び、手は震え、息をするのもやっとだ。
(…だめ……)
「あっ、おいコラ……」
実弥が何かを言っているが、蛍の意識はもうそれを聞く余裕もなく、すぐに目の前が真っ暗になっていったのだった。
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「かはっ…」
喉が渇き、むせて目を覚ますと、そこに広がる天井には既視感を覚えた。ただ、つい先刻とは違い、今度はきちんと布団に寝かせられている。
「よぉ、起きたか」
ゆっくりと目を覚まし、体を起こすと、そこには実弥があぐらをかいて座っていた。
(ああ、だめだ)
熱の引かない体が芯から疼くのがわかる。今、私はこの男を「欲している」のだと。文字通り食べてしまいたい。
「鴉が来て、テメェの事を探してたぞ。お館様に心配かけるんじゃねぇ…」
多分耀哉だろうが、心配してくれていたらしい。そういえば本来ならもう次の任務地に行かなければならない時間だろう。