【鬼滅の刃】杏の木 ♦ 煉獄 / 長編 / R18 ♦
第3章 鬼の血の子と稀血の柱 ※
涼しげで切れ長の瞳が上目に風柱、不死川実弥をじっと見つめる。
「どう?これでも納得いきませんか?」
大きく口を開いてべえっと舌を出し、牙がない事を敢えてオーバーに見せてみる。きっと端から見たら滑稽な姿だろう。
「ちっ、わかった、もういい」
舌打ちして実弥は蛍の前にしゃがみ込んできた。
「じゃあ何でテメェは俺の血に反応したァ?」
間近で睨み付けられる。何てツンツンした人なのだろう。産屋敷家にいる時でもこんな柱は見たことがなかった。
「それ、聞きたいですか?」
「あぁ?」
苛ついているのがわかるほど、ピキッと血管を浮き上がらせ実弥が詰め寄る。
「そもそも私は……」
最初に軽くため息を吐き、ざっくりとした生い立ちから育ち、そして最終選別を経て隠になった事を、蛍はかいつまんで話し始める。すると実弥は少し考え込んだあと、はっとした表情を浮かべ、
「ってえと、テメェはあの炎柱のところの酔っ払いに世話になってんのかァ?」
その言葉には侮蔑が含まれていた。いや、もしかしたらそんな意図はなかったかもしれないが、少なくとも蛍にはそう感じられた。
ぱぁん!!と勢いよく平手打ちが実身の左頬に入る。
「なっ…!?」
「たとえ風柱さまとはいえ、槇寿郎さまへの侮蔑は許さない」
実弥は再び反応できなかった事実に驚きを隠せないでいたが、その口角をニヤリと上げた。
「…身の程を知れよクソがぁ」
立ち上がり、半歩下がって実弥に向かって半身で構える。勝てるとは思えないが、殺される事もないだろう。
「槇寿郎さまへの侮辱を取り消して」
「ハッ!笑わせるな!最近は任務にも手を抜くような男だぞ。昔がどうかは知らねぇが、今はただの酔っ払いオヤジだろがよォ」
実弥は一切の構える様子もなく、挑発するような口調で千佳を煽った。
「うるさい!黙りなさい!」
瞬時に右足で地面を蹴り、トップスピードで実弥の懐へと飛び込んだ。左足で着地し、右腕に全てのスピードと体重を乗せる。
だが、
「!!早ぇな、おい…」
その拳は彼の頬をかすめただけで、次の瞬間には実弥の右足が千佳の左側の側頭部を狙って放たれる。
「うぐっ…」
それを既の所で左腕でガードする。直撃は避けたものの、たった1撃の蹴りで左腕はもう痛みと痺れで使えそうになかった。