【鬼滅の刃】杏の木 ♦ 煉獄 / 長編 / R18 ♦
第3章 鬼の血の子と稀血の柱 ※
腰に付けたカバンから、簡単な手当の道具を縁側に並べ、本人の意向を無視し、手当てをしようとその腕を見る。
そこかしこに完治してない生傷があり、新しい傷からは血が滲んでは垂れ落ちていた。
その傷口を清潔なガーゼで拭おうとした、その時だった。
「あれ?」
今までに嗅いだ事のない香りが鼻腔を擽った。敢えて例えるならば、甘く、とろける蜜の様な匂い。
(なに…これは……)
確かめようと、更にその香りを追おうと深く吸い込む。すると今度は一気に視界が揺らぎ始める。
「何だァ?………」
風柱が何か言っているが、その言葉が耳に入ってこない。視界は揺らぎ、膝が笑い始める。
(あ、だめ、これは無理…)
最後に何かを考える余裕すらなく、蛍の意識は真っ暗な闇の中へとフェードアウトしていったのだった。
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目が覚めると、見たことがない天井がまず目に入った。そのまま横を見ると、どうやらここが居間である事がわかった。
(っと、何してるんだっけ)
体を起こすと同時に背後から、澄んだ金属の音が聞こえた。見ることは出来ないが、背中に剣を突き付けられているのはわかる。
「テメェ…鬼か?話によっては生かしてはおけねぇ」
風柱の声が聞こえてきた。
「…痛っ」
首の横に添えられた刀が薄皮一枚を切り、薄く血が滲む。
「わ、私は隠、ただの隠のひとり。鬼じゃない、どこから見ても鬼じゃないでしょ?太陽だって平気なのに」
まるで二日酔いの様なガンガンと響く頭痛がする。それを何とか我慢し、つとめて冷静に会話を試みた。
そうしなければ、この風柱の男は迷いなく首を切りにくるだろう。切っ先からその本気の意思が痛いほど伝わってくる。
「目を見てもいいし、牙もない。太陽も平気だし、私は人間よ」
戦闘の意思はないと両手を挙げ、ゆっくりと落ち着いた声で言うと、数秒を置いて刀が下げられるのがわかった。キィンと冷たく響く納刀の音が響いたのを確認してから、蛍はゆっくりと振り向いた。
「頭巾を取って顔を見せろォ。口元もだ」
言われて隠の制服である頭巾を取ると、一つに纏めていた栗色のやや明るい髪が、その拍子に解けてふわりと広がった。