【鬼滅の刃】杏の木 ♦ 煉獄 / 長編 / R18 ♦
第3章 鬼の血の子と稀血の柱 ※
台所から持ってきた湯冷ましで千寿郎の手を優しく洗い流し、手持ちの消毒薬を脱脂綿で優しくトントンと塗り、酷いところはガーゼを当て包帯を巻いてあげた。
「どう?不便はない?」
言われて、手をにぎにぎと動かしてみる。
「はい!ありがとうございます」
にっこりと笑い答える千寿郎に蛍もほっとし、良かったと彼の頭を撫でた。
「いつも言ってるけど、ちゃんとそういうのは教えなさい」
そうは言っておくが、また彼は言わないであろう事もわかっている。千寿郎は滅多な事では弱音を吐かない。強く出る事のない大人しい性格ではあったが、だからといって引いたり諦めたりも出来ないのだ。それは一緒に生活をし、稽古や座学を見てあげているとすぐにわかった。
「さあ、おやつにしましょう」
火は止めてあるけど、まだ温かいはず。そう思い、蛍は桶も台所へ戻そうと抱え立ち上がる。その時だった。
「千寿郎!蛍!今帰ったが、ここか!!」
ぱあん!と大きな音を立てて襖が開き、それ以上に大きな声が響き渡った。慣れたとは言え不意打ちだと反射的に驚いてしまう。
そこには杏寿郎が立っていた。
「兄上!!」
千寿郎が急いで駆け寄った。抱きついてくる彼に合わせて杏寿郎も腰をかがめる。
「お帰りなさいませ!!」
「うむ!ただいま!だがあまり抱きつくな。お前が汚れてしまう」
任務を終えたばかりなのだろう、血と泥で汚れた衣服に、体はどう見ても傷だらけだ。その姿を見て蛍は深いため息を吐く。
「…またちゃんと治療を受けないで帰ってきたでしょう?」
「うむ!早く帰りたかった!家で蛍が治療してくれるなら必要ないだろう!」
明らかに軽傷ではないその姿に千寿郎が心配そうな表情を浮かべると、それを察する様に杏寿郎が頭を撫でた。
「心配はいらん!こうして生きて帰ってきているだろう!」
「……はあ。どうしようもないわね。千寿郎くん、悪いのだけれどお湯と湯冷まし、それぞれ持ってきてくれる?」
「は、はい!」
千寿郎が慌てて台所へと走って行く。蛍もまた、傷の手当ての為の道具をあれやこれやと準備し始めた。
「本当はきちんとした医療を受けるべきなのよ。こんな半人前の私じゃなくて」
「うむ!だが、評判は良いと聞いているぞ!」