【鬼滅の刃】杏の木 ♦ 煉獄 / 長編 / R18 ♦
第3章 鬼の血の子と稀血の柱 ※
ふわっと暑い温度の風が、夏の訪れを告げるかのように吹き抜けると、今干し終えたばかりの大量の洗濯ものがはためいた。
「よし。終わり!おやつにしよっか」
額から落ちる汗を拭う。横で一緒に洗濯を片付けていた千寿郎は嬉しそうに頷いた。
「はい!今日はどんなおやつなのでしょうか」
嬉しそうな笑みを浮かべ、一緒に肩を並べて家の中へ戻ると二人で台所へと赴いた。
まだ小さな千寿郎が踏み台に昇って横に立つ。もうすぐ8歳だが、言動や所作は大人びて、それでいて楽しそうに浮かべる笑みはもっと幼くも見えた。
「えへへ…実は昨日から仕込んでいたの。さっき火にかけたからもう出来てるはずよ」
3段に重なった蒸籠を取り外すと、そこには千寿郎の見たこともない食べ物が広がっていた。
「うわああ……!白くて甘い匂い…これは何という食べ物なのですか?饅頭のように見えなくもないのですが」
熱々の籠を、目を輝かせながら色々な角度で見つめる千寿郎はあまりにも可愛い。今すぐ抱きしめて高い高いをしたいぐらいだけれども、もうそれを喜ぶ年でもないので蛍はそれをぐっと堪えた。
「これは、蒸しパンよ。その名の通り、パンを蒸してるんだけど、今日のはさつま芋も一緒に入れたから、蒸し芋パンね」
煉獄家の兄弟が揃って大好物であるさつまいもだが、旬が終わるとどうしても甘みが落ちてしまう。そこでパンと砂糖と一緒にする事で丁度良いおやつになるのだ。
「ああ、本当に凄いです!今度、僕にまた教えてください!」
「もちろん。千寿郎くんはどんな料理でも1回で覚えちゃうから、教え甲斐があるもの。そのうち私なんかすぐ抜いちゃうわね」
蛍がそう言うと、千寿郎はとても嬉しそうに頬を赤らめて笑い、照れくさそうに頬を掻いた。その手が毎日の稽古でマメだらけになっているのが、その姿とのギャップで痛々しく見える。
「…また怪我してるわね。見せて」
その手を取りよく見ると、ところどころマメがつぶれたり皮が剥けたりして血が滲んでいた。
「洗濯、痛くなかった??化膿したら大変だから、おやつの前に、手当てするわよ」
とん、と踏み台から彼を下ろすと、手を引いて蛍の自室へと向かった。居候用に使わせてもらっている小さな一間に、向かい合って座る。
「ごめんなさいね。私が気付いてあげなきゃいけないのに」