【鬼滅の刃】杏の木 ♦ 煉獄 / 長編 / R18 ♦
第3章 鬼の血の子と稀血の柱 ※
言いながら、ぼろぼろになった隊服を脱ぎ始める。美しく鍛え上げられながらも、まだ成長途中の上半身が露になった。
出血こそ止まっているが、そこかしこに傷が見られる。特に左肩の傷は貫通創である事がわかった。左の頬から耳に一線を引く切り傷も酷い。
「私は耀哉…産屋敷さまのところで昔聞き齧ったものを、胡蝶さまのところで時々お手伝いしてただけだもの」
その蝶屋敷と呼ばれる診療所の主でもある花柱・胡蝶カナエもつい先日、命を落としたばかりだった。明日生きて帰れる保証などどこにもない。忘れているつもりはないけれど、突然突きつけられる訃報には慣れる事ができなかった。
「あ、お湯…持ってきました!」
千寿郎が桶を2つ運んできたので、ありがとうとお礼を言う。しかし彼は心配そうな顔を浮かべるばかりだった。
「千寿郎!心配ないと言っただろう!少し怪我はしたが全く問題ない!」
杏寿郎が千寿郎の方を向き、目線を合わせてにっこりと微笑むと少し安心したようだ。
「ご、ごめんなさい。あ、これ、洗濯してきます」
杏寿郎の汚れた上着と羽織を抱え、そそくさと立ち去る可愛い弟を優しい目で見送ると、彼は続けた。
「千寿郎は手を怪我しているようだな。本当に君がいてくれて助かっている」
大きな瞳がまっすぐに蛍を見つめる。この瞳と目が合うと思わず目を逸らしたくなる。
「いいえ、助かっているのは…私もだから」
言葉で誤魔化し、さっさと手当を始めた。清潔なタオルで体を清めるが、時々顔をしかめる様は、傷の深さを物語っていた。
丁寧に上半身を清め、傷口に消毒薬、化膿止めなど、適宜薬を使い、深い傷は縫合も行った。包帯やガーゼで綺麗に仕上げていく。
「……はい。お疲れ様!」
最後に一番深かった肩の傷を包帯で覆い、全ての処置が終わる。
「うむ!ありがとう!」
「傷が落ち着くまではお風呂は控えてね」
実際は傷が落ち着く前には次の任務に行ってしまうし、それも知っているのだけれど、言わずにはいられなかった。
「おやつの時間は過ぎちゃったから、夕餉にしましょう。千寿郎くんも槇寿郎さまも、おやつがなかったからお腹をすかせてしまっているかもね」
「父上は今日は?」
ひとつ落ち着いたトーンの声に、蛍はしまったと思った。なるべく、杏寿郎には父親の心配をさせたくなかったのだ。
