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【鬼滅の刃】杏の木 ♦ 煉獄 / 長編 / R18 ♦

第2章 初めての死


(ああ、本当に……)

そう、彼は人と違う。非才でありながら努力家で、思慮深く、弱きを守り、さりとて驕り高ぶらず、常に人より下の目線でものを眺めている。

老齢していれば、悟りを開いているようなその姿も、少年の姿ではあまりにも儚い。「良い子でいなければならない」という概念に縛られているようにも見えなくなかった。

「……蛍、君は何を悩んでいる?」

「え?」

「俺から見れば、君は悩まなければならない要素は何もない
。自分を弱いと思っているのだろうが、君は弱くない」

薄い笑みを浮かべてそういうと、ゆっくりと立ち上がった。こちらに差し出したてをしっかりと握ると、蛍を引っ張り、立たせてくれる。

もう眩暈や体調不良はなかった。酷く疲労困憊はしているけども。

「ありがとう。……昔ね、って言っても2年前かな。杏寿郎の家を出る時に、似た事を槇寿郎さまが言ってくださったの」

「父上が?」

「ええ。でも私はやっぱり弱かった」

お尻についた土埃を払い、頑張って笑顔を繕う。

「私ね、前線は諦める。わかったの。肉体の問題じゃない。槇寿郎さまは心を燃やせって言ってくださったけど」

そう、肉体の弱さが問題じゃない。心が打ちのめされてしまったのだ。

繕った笑顔はそのままに、声が震えだす。涙はなんとかこらえていた。

「ダメね。成長がないもの。この選抜が終わったら、私は隠を志願しようと思う。きっと、私にはそっちの方が向いているわ」

隠。情報の伝達、物資の運搬、隊士の救助、事後処理……鬼殺隊士が前衛で鬼と戦うため、後方支援全体をカバーする裏方の仕事である。
蛍の様に心を打ちのめされたものも多い。中には純粋に戦闘能力以外の秀でた能力で抜擢される場合もある。

煉獄家といえば戦国時代より前から続く名家である。そこで剣術まで習っておいて、前線から外れることはあまりにも不甲斐なかった。

きっとがっかりされるだろう。

だが…

「そうか!それは良い!」

杏寿郎の顔がいつものように、ぱあっと明るくなる。

「え…?」

「蛍は自分のあり方を見つけたのだろう!素晴らしい事だ!君が隠なら、俺も安心だ!」

歩こう、と言うようにまた手を差し出してくる。おそるおそる手を伸ばすと、杏寿郎はぎゅっとその手を握りしめた。
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