【鬼滅の刃】杏の木 ♦ 煉獄 / 長編 / R18 ♦
第1章 序章
炎柱・煉獄槇寿郎。
齢20そこそこに、鬼殺隊最強の部隊「柱」の一員になった。
鬼殺隊の中でも最も由緒ある血筋のひとつで、年若くとも知識と経験は同世代の比ではなかった。
鬼を切り、人の正義を守る事こそ、煉獄家の使命である。
それが鬼であらば、どんな人格だろうが、能力があろうが関係はなかった。すぐに討つ。それが信条だ。
だが、目の前のその子は、果たして鬼なのか、人間なのか、槇寿郎には判断が付かなかった。
ここは産屋敷邸。
柱と一部のものしか場所も知らない、鬼殺隊の本拠地である。
美しく手入れの行き届いた庭に、槇寿郎は跪いていた。
縁側には96代目の産屋敷当主が座っており、その横には奥方が控えている。
「おもてをあげなさい…」
凜とした、凪の水面に落ちるひと滴の水滴が奏でる様な、澄み渡る声が響く。
「お館さま。ただいま戻りました」
「ご苦労様でした。話は鴉から聞いております」
当主がすっと右手をあげると、隠のひとりが先の赤子を抱いて、奥方の前に静かに現れた。
「…どうだい?」
「はい、とても健やかで美しき子です」
当主の問いに、奥方が答える。視力があまり良くないため、視線を向けることはなく、前を向いたまま続ける。
「名をなんと申したか」
「蛍…と。後に家を調べたところ、家名は八千草とのこと」
「ふむ…良き名ではないか。そして…この蛍、鬼より産まれたと聞いておるが…」
「はい。此度の討伐、対象の鬼は産み月に入った鬼でありました。恐らく、鬼になったばかりかと」
柔らかな風が吹き、槇寿郎の赤みを帯びた黄金色の髪がふわりとなびく。
「私にはどうしても鬼子には見えず、連れ帰った次第でございます」
「それは間違いないであろう。もはや殆ど光を失った私でも、気配でそれはわかる。ただ、平安の世から続く歴史の中でも、聞いた事がない事態でもあるが…」
奥方の方を振り向くと、何も言わずともわかったように、彼女は静かに頷いた。
そっと蛍を受け取り抱くと、目を閉じたまま、乳房を探すように手をばたばたと動かし始める。
「この子は責任を持ってこの産屋敷家で預かりましょう。私も身重の身なれど、子はたくさんいる方が明るくて良いものです」
そう言うと、先ほどの隠に蛍を抱いてもらう。