【鬼滅の刃】杏の木 ♦ 煉獄 / 長編 / R18 ♦
第2章 初めての死
話はここで終わりとばかりに、踵を返す。
いつもの様に、杏寿朗はずっと蛍を見送っていた。
彼の視線を背に、「記憶」にある道をたどる。
すると、どんどん空気が変わっていくのがわかった。いるのだ。この先に。
「やっぱり夢じゃない…!!」
とうとう、その姿を捉えた。何かを投げてきたが、それが誰かの足である事がわかった。ぐしゃりとぶつかる音が聞こえる。
夢ならば、あの鬼にやられた「痛み」と「恐怖」がこんなに残っているはずもない。悔しさよりも、怖かった。
先手必勝とばかりに、蛍は刀に手をかけ、最大速度で駆けだしていった。
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何度か死んで起き上がってを繰り返すうちに、わかってきたことがあった。
まず、この現象が起きたあと、体が燃えるような熱を帯びる。病気の時の高熱のような、熱くて寒く眩暈がするあれだ。
そして、ダメージが残る。五体満足な上体で目が覚めるものの、死ぬときに喰らったダメージの箇所に、鋭い痛みや、逆に鈍痛、だるさ、重さなど、様々な症状が残るのだった。
熱と痛みというハンデを負うことになるので、何か違う行動を取らなければならない。だが、それがうまくいかない。
そう、これが一番のネックだった。死ぬ度に、恐怖と痛みは上乗せされ、それが緩やかに心を蝕んだ。
何度この目覚めを経験したかわからなくなった時、とうとう蛍は杏寿郎の顔を見れなくなっていた。
毎回、微細な部分は違うのだけれど、それでも彼は毎回毎回、蛍を好きだと言ってくれる。こんな情けない私を。それが辛かった。
「起きたか!おはよう!」
ゆっくりと目を開くと、もう何度も見たかわからない同じシチュエーションで杏寿郎が微笑んだ。
うっすらと目を開けるといつもの光景が広がった。
全身は気怠く、体は熱を帯びている。もはや、愛想を返す余裕もなかった。
どうすれば良いのかわからない。打ち明けたら信じてくれるだろうか?いや、きっと理解はしてもらえないだろう。
それに、どうせ死ねばまた戻ってくる。するとまた打ち明ける?一から?
瞳から一筋の涙がこぼれる。もう、何だかとても疲れてしまった。
「どうした?む!熱があるようだ!」
杏寿郎が上から覗きこんでくる。これももう何度みたアングルだっただろうか。